■「いずも型」空母化への改修
「いずも型」を空母化するといってもアメリカ海軍の保有するような本格的な空母ではなく、F-35Bを運用できる軽空母への改修である。そもそも「いずも型」は全長は248m、満載排水量が2万6000トンなので、アメリカ海軍の保有する空母どころか強襲揚陸艦よりも小さい。
「いずも型」を空母化する改修は5年に1度実施される大規模定期検査を利用して2回にわたって行われる。改修はジャパンマリンユナイテッド株式会社が担当する。
1番艦の「いずも」の第1回目の改修は2019年度末から2021年6月まで行われた。F-35Bを運用するための基礎工事で、改修費用は意外と安く31億円という。
当初「いずも型」を空母化するにあたってスキージャンプ勾配の導入などが検討されていたが、実際には飛行甲板の耐熱性の強化と着艦誘導システムなどの装置の導入という必要最低限の改修となった。
ちなみに「いずも型」は設計段階から将来のF-35Bの搭載の可能性を考え、エレベーターのサイズなどを決定したという。そのためエレベーターの改修のような大工事は必要ない。
第2回目の改修は2024年度末から始まる予定で、F-35Bの本格的運用のために艦首部の飛行甲板の形状を四角形に変更する。現在の形状は艦首方向に向かって先細りの台形になっており、航空機の発着には左舷側の飛行甲板を当てている。
ヘリコプター運用のみに限定すれば現行の形状でもかまわないが、STOVL(短距離離陸/垂直着陸)機とはいえF-35Bを発艦させるための滑走路として使用するには少しでも飛行甲板が長いほうがいい。これにより飛行甲板はアメリカ海軍の強襲揚陸艦と同じような矩形型の形状となる。
「かが」の改修に関しては第1回目が2021年度から2023年度に渡って、第2回目が2026年度から2027年度に渡って行われ、「いずも」と同様な改修に加えて、航空管制室の改装(視認性を高めるための工事として13億円の工事費を確保)、艦内もF-35Bの運用に合わせて動線などを考慮した改装が予定されている。
■F-35Bを運用するための飛行甲板の改修
「いずも」の空母化に当たって一番大きな工事になるのが飛行甲板の耐熱性の強化だ。運用する予定のF-35BはSTOVL機なので、発着艦、特に垂直着陸を行う際の高温の排気ガスが問題になる。発着艦にはリフトファンの推力とF135-PW-600エンジンの排気ガスが使用されるが、垂直着陸で着艦する場合は飛行甲板の特定の場所に高温の排気ガスが当たり続けることになる。F-35Bのエンジンの排気ガスはAV-8B+のエンジンよりも高温(1000度近い)であるといわれ、ヘリコプターの運用しか行っていなかった「いずも」飛行甲板では保たない。当然、耐熱処理を施す必要がある。
通常、空母や強襲揚陸艦の飛行甲板は高張力鋼の上にノンスキッドと呼ばれる研磨グリッドと合成ゴム、エポキシ樹脂を混合させた塗料を塗って、ざらざらした硬い飛行甲板表面を造り、耐摩耗性や耐熱性、耐滑り止め性を高めている。しかしF-35Bの排気ガスには通常のエポキシ系のノンスキッド処理を施した飛行甲板では耐えられないため、より高度な耐熱処理が必要になる。
そのためF-35Bを運用するアメリカ海軍の艦艇では、セラミック酸化物とアルミを混ぜたSafTrax TH604という塗料を吹き付けて耐熱性を高めているのである(実際にはこの塗料の利点は、耐熱性もさることながら耐摩耗性、耐腐食性が高く、衝撃で剥離し難い上、従来の塗料よりも塗布後の重量が軽いことにある)。ちなみにイギリス海軍のクイーンエリザベス級ではアルミとチタンの混合物を吹き付けているという。
「いずも」ではどのような塗料が使用されているかは明らかではないが、おそらくSafTrax TH604と同様のものと思われる。また「いずも」の飛行甲板の耐熱性の強化は飛行甲板全体に施されているわけではなく、着艦エリアとして使用される甲板後部(4番、5番のヘリスポット周囲)に限定されているようだ。
飛行甲板の改修では耐熱性の強化とともに標識線(トラムライン)にも変更が加えられている。
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