■今年1~2月、NEV(新エネルギー車)の販売台数は前年同期比154.7%増
それとともに、EV市場も急速に広がりを見せている。
中国自動車協会の発表によれば、今年1月と2月の合計のNEV販売台数は、76.5万台に達した。前年同期比154.7%増である。純粋なEVの乗用車を見ても、1月と2月の合計で58.1万台を販売しており、前年同期比138.0%の増となる。
中国は同時に、EVを製造するのに必要な約2万点の部品を、なるべく国産品にしていこうとしている。
このような動きはEVに限ったことではないが、「国産化運動」は、ポスト・コロナ時代の中国の趨勢である。
ただそれでも、この先の見通しは楽観視できないという。自動車業界を取材する北京の経済紙記者が語る。
「一部でオミクロン株による経済活動の減退はあったけれども、2月中旬までは北京オリンピック景気もあり、自動車業界は好況を保っていました。
しかし、2月下旬にウクライナ危機が勃発し、それに伴う石油価格の高騰などを受けて、景気の先行きが不透明になってきたのです。
そのため中国のEV市場も、今後は一時的に頭打ちになることが見込まれます」
■中国の1.8倍という世界最大の国土を持つロシアへの熱い視線
そんななか、中国の自動車メーカーが熱い視線を送っている海外市場があるという。中国の経済紙記者が続ける。
「それは、ロシア市場です。わが国の1.8倍という世界最大の国土を持つロシアは、完全な自動車社会で、昨年の自動車販売台数は、約167万台。イギリスやフランスの自動車市場を、ついに追い抜きました。
ロシア市場における中国車のシェアは、2011年は2.5万台前後にすぎませんでしたが、昨年は10万台近くに達しました。
今年1月のロシアの自動車市場で、奇瑞汽車(Chery)と長城汽車(GWM)のクルマが、中国勢として初めてベストテン入りを果たしました」
記者はさらに続ける。
「今回のウクライナ危機、そして戦争を受けて、周知のように米欧日が、ロシアに対して厳しい経済制裁を科しました。
それによって、ロシアの自動車市場を中国勢が席巻できるという期待感が、中国の自動車業界に生まれているのです。
もちろん、部品調達や輸送などで困難を伴うことが予測されますが、それにしても『空白の167万台市場』は、ビッグチャンスです。
将来的には、ロシア人は中国のEVを運転するようになる可能性が高いでしょう」
この話を聞いて思い出したことがある。それは第3回で述べたファーウェイ(華為技術)の幹部から聞いた、こんな話だ。
「元人民解放軍の技師だった、ファーウェイの創業者・任正非CEOは、1987年に深圳でファーウェイを興し、電話交換機を売り始めたけれども、古巣の人民解放軍をはじめ、中国国内でどこにも相手にしてもらえなかった。そんな時、1991年にソ連が崩壊して、国内がメチャクチャになった」
ファーウェイの幹部に関する話は、続く。
「当時のロシア人は、多少オンボロでもいいから、とにかく安い商品を求めていた。そこで無名だったファーウェイは、ロシア市場に打って出て、格安の電話交換機を売りまくった。これが、ファーウェイの海外進出の第一歩だった。まさに、他人のピンチは我がチャンスなりだ」
ウクライナ危機、戦争というピンチをチャンスに変えようとするところは、中国商人らしい発想だ。
■いっぽう昨年GMを抜いて全米販売台数1位のトヨタ。しかし…
翻って、中国ウォッチャーの私から見た日本の自動車業界の話を少ししたい。
今年1月5日の『日本経済新聞』夕刊の一面記事は、興味深かった。まず右肩の一面トップ記事の見出しは、こうだ。
〈トヨタ米販売 初の首位。昨年90年君臨のGM抜く〉
記事の内容は、トヨタの昨年のアメリカ市場での新車販売台数が、米ゼネラル・モーターズ(GM)を抜いて、海外の自動車メーカーとして、初めてトップに立ったというものだ。
トヨタは前年比10%増の233万2000台。対するGMは、221万8000台。GMは1931年にフォードを追い抜いてトップに立って以降、初めて首位の座を明け渡したのだという。
この記事を読むと、1960年代にアメリカ市場に参入したトヨタが、半世紀以上に及ぶ苦節を経て、ついに「自動車の本場」であるアメリカでトップに立った。トヨタは凄い、トヨタは偉いと思えてくる。
ところが、その左隣の2番手の記事の見出しには、こう書かれていた。
〈ソニー、EVで新会社 今春設立 事業化を本格検討〉
こちらは、ソニーがEV市場に参入するという第一報だ。米ラスベガスで開催中(※記事執筆当時)のテクノロジー見本市「CES」で、ソニーの吉田憲一郎社長が、EVを事業化する新会社「ソニーモビリティ」の設立をブチ上げたのだという。
同記事はこう記している。
〈従来、米テスラが先行し、既存の自動車大手やスタートアップ企業が追い上げる構図だった。ソニーグループなど、他の分野で実績を積んだ企業は「第三極」となる。
(中略)吉田社長は記者会見で「センサーやクラウド、5G、エンターテイメント技術、コンテンツを組み合わせる必要がある」と指摘した。
ソニーグループはこうした技術を一社で手がけており、「モビリティを再定義する好位置に付けている」と強調した〉
この発表を受けて、ソニーの株価が一日に5%も上昇したという内容で、記事を結んでいた。
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