道路を走る時、その道路を「時速何キロで走るか」ということは、トラックドライバーが日々直面している問題である。
もちろん、車種別の法定速度、道路の制限速度というのが大前提にあり、スピードリミッター、デジタコ、ドラレコ、社速などの業務的要素も加わってくる。
長距離運行では、到着時刻や労働時間にも大きく差が出る問題だ。いっぽうで、スピードの出し過ぎは、大事故につながる大きな要因のひとつ。
トラックにおける最適な制限速度は時速何kmであるべきか!? 現役トラックドライバーでトラックジャーナリストの長野潤一氏が考察していく。
文/長野潤一 写真/フルロード編集部
*2016年9月発行トラックマガジン「フルロード」第22号より
■制限速度が実情と合っていない道路
制限速度の問題でまずわかりにくいのは、実勢速度と制限速度がかい離している道路である。
たとえば、郊外の見通しの良い道路で制限速度は時速40km、実際は時速50~60kmで流れているとする。こうした道路で自車だけがかたくなに制限速度を守れば、後続のクルマに迷惑をかけてしまう。
こういう場合は、周囲に合わせて走るのが円滑な流れにつながる。ただ、自分が運転する時は、決めていることがある。「営業車両(緑ナンバー)はプラス10km以内にとどめる」ということ(速度超過を勧めているわけではないのでご注意を!)。
それならば速度取り締まりで止められることはまず無い。「時速何kmオーバーから捕まえるのか?」というのは警察官の裁量にかかっているため、事態をむずかしくしている。だが、捕まるかどうかの問題ではなく、クルマでメシを食っている者として「暴走」はいけないと思うのだ。
同じ制限速度の一本の道でも、小学生が集団登校している通学路、市街地、田んぼの中の一本道……、と道路状況は刻々と変わる。その状況にあった速度を常に考えながら運転しなければならない。
特に強調したいのは、「子供がいる通学路などでガードレールが無い場合」だ。必ず時速40km以下で走るべきだろう。
次に「路肩の幅、飛び出しの可能性」である。路肩が広い場合は、わき道から出て来るクルマや歩行者、自転車なども早く発見し対応することができる。
しかし、民家などが車道に迫っている場合の飛び出しは対処できないので、あらかじめ速度を落としておく必要がある。また、対向車線が渋滞している場合も、クルマの間から人や自転車が飛び出す可能性があるので徐行だ。
■自動車専用道路やバイパスの速度は?
原則をいえば、大型貨物等(総重量8t以上)の法定速度は、高速道路で時速80km、一般道で制限速度がなければ時速60km。普通車は高速道路で時速100km(平成12年から自動二輪や軽自動車も同じ)、一般道では時速60kmである。
曖昧なのは一般有料道路や自動車専用道路、都市高速などだ。栃木県の国道119号線バイパス「宇都宮北道路」は、自動車専用道路であるが、制限速度は時速80kmで、法定速度を超える珍しい道路である。
日光宇都宮道路に直結するが、終点に信号があり、距離も約5kmと短い。制限を緩和するメリットがどれほどあるのかと思ってしまう(時速80km制限だと時速100km程度で走行するクルマがけっこう出てきてしまう)。
また、2016年4月に開通した国道16号線(保土ヶ谷バイパス)の町田立体も、制限は時速80km(下り線の終点の手前では時速60km)。
東名・横浜町田ICに入る場合はR=35の急カーブになるため、時速60km程度まで落とさなければならない。しかも、急な下り坂であるため大型車にとってはブレーキがキツい。制限時速70kmが適当だろう。
「無料の高速道路」と呼ばれる名阪国道は、名古屋~大阪を直結する自動車専用道路だが、「事故発生率ワーストワンの高速道路」とも呼ばれている。
トラックが通行車両の約半数を占めるという物流道路で、制限速度は両端の峠部が時速60km、中間の平地部が時速70kmであるが、実際には高速並みの時速90kmで走行するトラックも少なくない。もともと高速道路ではなく、開通から約50年と設計も古いため、急なカーブや勾配があり、合流レーンが短いなど、危険な要素がたくさんあり、重大事故が多い。
運送業界をあげてスピードを自粛する必要があると思う。ただ、自粛といっても、運送会社は数万社あり統制がむずかしい。大手が下請けにも順守を徹底するなど、なんらかの方策が必要だ(一部には、急ぐコースは大手の看板の入っていない下請けに任せる事例もある)。
また、早朝の首都高3号渋谷線も、制限は時速60kmであるにも関わらず、東名からの流れでそのまま時速90kmで入って来る大型貨物が目立つ。キッチリ守れとはいわないが、出し過ぎだ。
運行管理者も、デジタコで東名と首都高の区別まではしていないのだろう。時速90kmで走れば、道路にも相当なダメージがあり、老朽化している大動脈をさらに傷める結果になる。
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