■フェアレディのクーペ
ショウでのダットサン・クーペ1500は、注目度の高さもあって、翌1965年3月にCSP311型、日産シルビアとして生産、発売に移される。
エンジンは、フェアレディSP310型に使用されていた1.5L搭載のショウモデルとは異なり、1.6Lの新エンジンになっていた。
このエンジンは、1.5Lに較べボアを拡大し、ストロークを縮小した1595ccだったことから、吹け上がりのよさなど1.5L時代とは大いに性格を変えたものであった。早速に、フェアレディにフィードバックされ、SP311型フェアレディ1600になっている。
シャシーをはじめとするメカニカル部分はフェアレディに準じるが、ダイアフラム式クラッチ、前輪にディスク・ブレーキの採用などが目新しい。これもすぐにフェアレディに引継がれている。
注目のボディは、殿内製作所(現在のトノックス)でセミ・ハンドメイドという形でつくられた。充実したインテリアもシルビアの大きな特徴となった。
シルビアは、フェアレディにとっても有効なプロトタイプというような役も果たしているのだった。
■いまや貴重な趣味の……
今回、シルビア、それもレアでマニアックというべきクルマを採り上げたのは、その後50年以上が経過して、いろいろな見方が生まれてきたことについても触れたかったからだ。
1965年から1968年まで、554台という少数の生産に終わったCSP311型シルビア。その後、1975年にS10系として量産された2ドア・ハードトップとしてシルビアの名前が復活するが、それは、初代とはなんの脈絡もない、ただ同じクーペ・ボディだからその名を受継いだ、というような印象であった。
同じ「Silvia」の字体ではあったが、その前に「NEW」の文字、「ニューシルビア」で通された。
その後もシルビアは七代目までチェンジをつづけ、2002年まで生産がつづけられ、中にはS13系やS15系というヒット作もあった。
それはまた別の機会に採り上げることになるだろうが、ニューシルビアからも20年が経過するいまとなっては、存在感という点ではわずか500台あまりの初代シルビアの方がグッと大きくなっている。
決して希少価値が、というわけではないのだが、佳き時代のよくまとまったコンパクトなクーペは、いまも欲しいタイプのクルマ、ではないだろうか。ともすれば実用性、経済性が重視されるけれど、でもそれは道具としてのクルマの場合。もうひとつ趣味の対象としてのクルマを考えたとき、俄然輝きを増してくる。
だって、1.6Lという手頃なサイズ、特別よくつくられたボディ内外、フェアレディ・ベースだから走りの性能も悪くない。もちろん時代は感じられるけれど、それはクラシカルな味わいとして、クルマ趣味実践者にとって悪いものではない。
昨今もイヴェントなどで、オリーヴ・グリーン・メタリックのスタイリッシュなボディは、大いに目立つ注目の存在になっているのだ。
【著者について】
いのうえ・こーいち
岡山県生まれ、東京育ち。幼少の頃よりのりものに大きな興味を持ち、鉄道は趣味として楽しみつつ、クルマ雑誌、書籍の制作を中心に執筆活動、撮影活動をつづける。近年は鉄道関係の著作も多く、月刊「鉄道模型趣味」誌ほかに連載中。季刊「自動車趣味人」主宰。日本写真家協会会員(JPS)
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