■海外仕様のヴェゼルに対して日本仕様が差別化される理由
そして、インドネシアで売られるHR-V(ヴェゼルの海外仕様)には、直列4気筒1.5Lのターボエンジンを搭載するRSが加わった。最高出力は177ps(6000rpm)、最大トルクは24.5kgm(1700~4500rpm)だから、動力性能を含めて、シビックの1.5Lターボをヴェゼルに移植したと考えればいい。自然吸気のノーマルエンジンに当てはめると、2.4L相当の動力性能を発揮する。
インドネシアで売られるHR-V・RSのトランスミッションはCVT(無段変速AT)で、ノーマル/スポーツ/エコの3モードドライブシステムを採用する。外観もRS専用のエアロパーツ、18インチアルミホイールなどが装着されてカッコいい。
RSは、日本で売られる現行ヴェゼルには設定されていないが、先代型は国内仕様に同じ名称のグレードを用意していた。先代ヴェゼルは2013年に発売され、2016年にRSを加えている。
先代ヴェゼルRSは、1.5Lのノーマルエンジンとハイブリッドに設定され、ボディ剛性を高めるパフォーマンスダンパー、ギヤ比を可変式にしたパワーステアリングなどを装着していた。また、2019年になると先代ヴェゼルは1.5Lターボエンジンを搭載するツーリングを加えた。インドネシアのHR-V・RSは、先代ヴェゼルのツーリングに近い。
先代ヴェゼルツーリングは、1.5Lターボの搭載により、最高出力は172ps(5500rpm)、最大トルクは22.4kgm(1700~5500rpm)を発揮した。最大トルクは、新型のHR-V・RSよりも2kgmほど低いが、それに近い性能であった。
国内で販売される現行ヴェゼルは、ハイブリッドのe:HEVが中心で、ノーマルエンジンは価格が最も安いGのみだ。先代型に比べてグレードが少ない。現行ヴェゼルは、いわゆる電動化を意識しすぎているのだ。
■日本仕様にもターボ仕様を!
その意味で、国内のヴェゼルにも先代のツーリングに相当する1.5Lターボを追加すると喜ばれるのではないか。ヴェゼルは走行安定性が優れているから、ターボを搭載して足回りをスポーティな方向にチューニングすると、ドライバーの操作に素直に反応する運転の楽しいクルマに仕上がる。
先代ヴェゼルツーリングの駆動方式は前輪駆動の2WDのみだったが、現行型に設定するなら4WDも用意して欲しい。ヴェゼルのリアルタイム4WDは、電子制御される多板クラッチを使って前後輪に駆動力を配分しており、走行状態に応じて的確に反応するからだ。
4輪のブレーキを独立制御して走行安定性を高めるアジャイルハンドリングアシストとの相乗効果も高く、ドライバーが一体感を味わえる運転感覚も得られる。舗装された峠道なども含めて、4WDにより総合的な走りの性能が高まるワケだ。
グレード名は日本のユーザーにも、インドネシアと同様のRS(ロード・セーリング)がなじみやすい。RSは初代シビックから使われている伝統の名称になるからだ。
日本市場にもぜひヴェゼルRSを設定して欲しいが、その前に納期遅延の問題を解決せねばならない。納期が著しく遅れている状況では、グレードの追加は難しい。
■人気機種を鈴鹿に集めすぎた!?
納期遅延の背景にはパーツやユニットの供給不足に加えて、生産工場の問題もあるといわれる。現行ヴェゼルは鈴鹿製作所で生産されているが、ここではN-BOXをはじめとする軽自動車のNシリーズやフィットも扱っている。これらの車種は生産台数が多いため、販売店からは「出荷状況なども含めると、鈴鹿は過密な状態にあり、納期も影響を受けているのではないか」という意見が聞かれる。
今は約80%のユーザーが、それまで使ってきた車両を下取りに出して新車を買っている。通常は下取りに出す車両の車検が満了する3カ月前くらいから商談を開始して、契約を行い、車検満了前に新車が納車される段取りを組む。
それがヴェゼルの納期は、e:HEV・Zなどが約1年、e:HEV・PLaYは受注を中断している状況だから、ユーザーは乗り替えができなくて困ってしまう。販売店も「ヴェゼルは納期を早急に短縮して欲しい。ターボエンジン搭載車を追加する予定は聞いていない」という。
まずは納期を回復させ、ヴェゼルe:HEV・Zと同様の290万円前後でターボエンジンのヴェゼルRSを用意すれば(先代型のツーリングも約290万円だった)、人気のグレードとなるに違いない。ホンダのブランドにも合っている。軽自動車に偏ったホンダのイメージを改めて戻す役割も果たすだろう。ホンダの国内市場に対する取り組み方が問われている。
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