一概に言ってしまうのも乱暴な話だが、あえて言うとすれば、たとえば日本車の魅力とは「きめ細やかさ」だろう。ドイツ車の魅力は「重厚さ」であり、アメリカ車のそれは「おおらかさ」と評せるだろうか。そしてイタリア車の魅力は「セクシーさ」にあると、多くのクルマ好きは大ざっぱに言う。そして、それらの大ざっぱな評価は、決して間違ってはいない。
だが「フランス車の魅力とは?」と聞かれた時、人はどう答えるだろう?
……フランス車の所有経験がない人は、ちょっと答えられないのではないかと思う。
なぜならばフランス車は、他国のクルマのような「わかりやすい(説明しやすい)特徴」みたいなものがあまりないからだ。だから、多くの人はフランス車を買わない。
だがそれは本当にもったいないことであると、フランス車を乗り継いできた不肖筆者は思う。フランス車は確かにわかりにくい。だが、やはり濃厚なる魅力が、そこに確実に存在しているからだ。
当企画ではそんな「わかりにくいフランス車の魅力」を、フランス車を愛し、そしてフランス共和国と少々の接点を持つ筆者が、前後編にわたって極力わかりやすくご説明申し上げたい!
※本稿は2022年4月のものです
文/伊達軍曹、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年5月26日号
■センスの違いに基づく微妙な違和感もステキ
劇画やコントなどのなかで「おしゃれな人物」として描かれることが多いフランス人だが、彼ら・彼女らは本当におしゃれである。
筆者が過去に何度かフランスへ渡航し、さらには多数のフランス人を拙宅に宿泊させた経験のなかで、「おしゃれではないフランス人」というのは一人も見たことがない。
みんな安くてボロい古着などを着ていたりするのだが、その選び方や色の選択、マフラーのあしらい方などが極めて洗練されているのだ。
もちろん全仏をくまなく旅すれば「途方もなくダサい人」も見つかるだろう。だが基本的な傾向としては、「フランス人=モノの美醜に敏感な人」と断言して構わないと確信している。
そして、主にはそんなフランス人が乗ることになるフランス車ゆえ、その全体的なデザインは必然的に「おしゃ〜れ」なものとなるのだ。
というか、彼らは特段「おしゃれなクルマ」を作っているつもりはなく、ごく普通に作っているつもりなのだろう。
だが数百年にわたっておしゃれ街道を突き進んできた彼らの血が、ちょっとしたスイッチの色づかいに至るまでを、約70年前までは大八車を引っ張っていた我々日本人の目からは「おしゃれ〜」としか見えない何かに変身させるのだ。
とはいえフランス車のデザインは難解というか、「変なカタチ」にしか見えない車種もけっこうある。これはもう「感覚の大きな違い」に基づく現象でしかない。
洋服や雑貨などのデザインセンスに関しては共通する部分も多い日仏両国民だが、クルマのデザインセンスと、クルマ以上に「ギャグセンス」に関しては、けっこう根本的に異なっている。
サッカー日本代表の元監督であるトルシエ氏のジョークも日本人にはさっぱり通じていなかったし(筆者もよくわからなかった)、フランスのコメディ映画も日本ではまったくヒットしない。“ツボ”のようなものがまるで異なるのだ。
ただしクルマのデザインに関するツボは、ギャグセンスほど激しく異なっているわけではないため、その「微妙な違和感」を逆に楽しみたいのである。
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