e-POWERの静粛性向上には「VCターボ」が必要だった理由
燃費を良くするにはエンジンの圧縮比を高く、パワーを出すには圧縮比を下げる必要がある。この背反性能を両立し、すべての運転領域で、最適な圧縮比に設定できるVCR(Variable Compression Ratio/可変圧縮比)は、エンジン屋にとっては「夢のユニット」だ。しかしながら、機構の複雑さや耐久性の問題から、これまで実用化された例はなかった。
日産のVCR機構は、圧縮比の変更をピストンの上死点の高さの変化で行う構造だ。上死点とは、上下運動するピストンの最上点のことで、圧縮行程中のピストンがより高い位置まで移動することで、圧縮比は高くなる。この機構を実現するのが、日産が独自に開発した複合リンクだ。ピストンを支持し、クランクの回転運動をピストンの上下運動に変えるコンロッドの代わりに、3本のリンクをモーターによって巧みに動かし、ピストンの上死点高さを連続的に変更する。
ノックしづらい市街地走行などの低中速・低中負荷運転領域は、燃費を良くするため高圧縮比14に、高速・高負荷運転領域は、ノックが発生しないように低圧縮比8とし、その間の領域の圧縮比は8~14の間をシームレスに変化させている。熱効率は40%を達成、一昔前では到底考えられないレベルだ。
しかしながら、発電専用エンジンであれば、他のエンジンでも充分なはず。なぜわざわざ、複雑な構造で高価なVCターボをわざわざ使ったのか。パワートレインEV技術開発本部エキスパートリーダー(兼)企画・先行技術開発本部 技術企画部 担当部長の平工良三氏に尋ねたところによると、通常のエンジンは回転数を上げることで出力を発揮するため、パワーとノイズは比例関係となってしまう。だがVCターボだと、回転数を変えずに圧縮比をコントロールして出力を稼げるので、エンジン発電時の静粛性悪化を防ぐことができる。
そのため、新型エクストレイルのVCターボエンジンの制御は、時速100km近くまで2000rpm以下を極力維持するように設定されているそうだ。こんな離れ業ができるのは、可変圧縮エンジン以外にはない。
また、発電時のノイズを徹底的に消すため、e-POWER制御の改良によって、エンジンの作動頻度を下げるとともに、高遮音ボディや吸・遮音材追加、前席遮音ガラス採用など、走行音を徹底的に抑え込んだことで、走行中の室内音は、マイナス3dB(およそマイナス30%)も低減したそう。執念すら感じるノイズ対策だ。
従来のe-Pedalとは異なる、e-Pedal Stepの実力
新型エクストレイルには、「e-Pedal Step」という、ワンペダル操作が可能なモードが標準仕様となっている。アクセルを踏み込めば、レスポンスよく思いどおりに加速、アクセルを戻せば、モーターの回生によって、なめらかにしっかりと減速し、通常のエンジンブレーキの約3倍以上の強い減速力が得られる。
従来の「e-Pedal」と違うのは、減速後の停止や停止保持機能の代わりに、アクセルオフの減速後にクリープ走行が発生するので、停車時には必ずブレーキを踏む必要がある点だ。
アクセルペダルだけで完全停止をする従来のe-Pedalの場合、ラフなペダル操作をすると、ぎくしゃくした車両挙動になりがちだが、e-Pedal Stepでは、速度が落ちるとクリープ走行になるので、通常のガソリンAT車のような操作感になる。新型エクストレイルではさらに、ブレーキ協調制御もついているため、アクセルを戻した際、状況に応じて自動的に油圧ブレーキも作動させる。
バッテリーが満充電のときや、滑りやすい氷結路など、回生ブレーキだけでは減速が充分に発揮できないシーンで、電動ブレーキブースターが4輪の油圧ブレーキを制御し、安定した減速を行ってくれる。ユーザーが特段、気にする必要はなく、いつも通りにブレーキ操作をすれば、あとは勝手にクルマ側が適切な制動をしてくれる。常に安定した減速が得られることは、「タフギア」である新型エクストレイルの魅力をさらに高めてくれる装備といえる。
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日産が持つ最先端技術が満載された、新型エクストレイル。日本仕様登場までかなり待たされたが、待っただけのことはある仕上がりぶりだ。販売も、発売開始から約2週間で受注1万2千台を突破したとのことで、ノートよりも1万台突破が早かったというほど、好調のようだ。今後もこの勢いのままヒットモデルとなることができるか、新型エクストレイルの動向に注目だ。
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