エクスロイドCVTは繊細すぎたことで残念な結果に
自動車の速度はエンジンの回転数とギヤチェンジによって調整される。現在の日本でメジャーなのは自動的にギヤチェンジを行うオートマチックトランスミッションだ。こちらはトルクコンバ―タ―という機構を使うシステムだが、無段階変速が可能なCVT(Continuously Variable Transmission)方式を採用したクルマも多い。
“トルコン”式に比べてCVTでは変速時のショックがほぼなく、燃費が良いなどのメリットがあり、コストも抑えられるために軽自動車でも数多く用いられている。しかし、エンジンパワーが大きくなると効率が落ちるなどの問題もある。
こうした問題を解決するために生み出されたのがエクストロイドCVTだった。
1999年に日産が発売したセドリック&グロリアに採用されていたのがこのエクストロイドCVTで、従来のベルト式CVTとは異なり、ディスクとパワーローラーによって動力を伝達するのが特徴。
それまでのCVTの弱点だった大排気量&高出力にも対応し、素早いレスポンスと滑らかで力強い加速を実現。さらに従来のオートマ車に比べて約10%の燃費向上も達成していた。
ここまで見る限りでは理想的なトランスミッションに思えるエクストロイドCVTだが、現実はそううまくは運ばなかった。最初の問題は製造コストで、部品点数が多く複雑な構造になるエクストロイドCVTはどうしてもこの難点を解決できなかった。
また、複雑ゆえにその取り扱いもデリケートであり、高価な専用オイルが必要なこと、そして故障の際に部品交換ができず、トランスミッションを載せ換えなくてはならないことなど、問題点は多かった。
鳴り物入りで登場したエクストロイドCVTだったが、上記の問題は根が深く、結局2004年をもって生産を終了。予想外の短命に終わってしまった。
シトロエンの粘り腰もハイドロサスを残せず
伝統的な金属製スプリングではなく、液体とガスによって車体を支え、走行中のショックも吸収・減衰するのがハイドロニューマチック・サスペンションだ。スプリングに換えて空気を利用するエアサスとも異なるのは、液体の力も利用していること。
ハイドロの略称でも知られるこの方式のサスペンションには、金属製スプリングでは得られない乗り心地の良さや、車高調整が簡単に行えるなどのメリットがあり、特に乗り心地に関しては「雲の上に乗っている」と表現されるほどの極上感があったという。これはオイル量を変化させて車高を一定に保つ能力があったから。
このハイドロサスの開発を積極的に推し進めていたのがフランスのシトロエン。1955年には自社のDSにこのハイドロニューマチック・サスペンションを採用し、その後も改良を続けている。
シトロエン DSのハイドロサスでは、高圧のオイルを使ってサスペンションを支えるが、このオイルはギヤのセレクターやクラッチ、パワーステアリングとブレーキにも活用される総合的なシステムになっていた。ある意味合理的なシステムではあったのだが、どうしても複雑になり、それに起因するトラブルもあった。
スプリングとダンパー(ショックアブソーバー)によるシンプルなサスペンションはトラブルも起こしにくく、コストも抑えることができる。そしてこの伝統的なサスペンションでも、時代が進むに連れて改良が加えられ、乗り心地も改善されていった。
もちろん、シトロエンでも自社のアイデンティティであるハイドロサスを電子化するなどして改良し、最終的にはハイドラクティブIIIプラスと呼ばれるシステムに進化させた。しかし、コストがかかり故障の可能性もそれなりに高かったハイドロサス搭載車は、2017年をもって生産が終了となり、シトロエンもこれ以上の開発・販売を行わないことを公表している。
「雲の上に乗る」「魔法のじゅうたん」などと賛美され、ファンも多かったシトロエンのハイドロサスは、初登場以来60年以上に渡って販売が続けられていたが、エコ重視やEV化などの時代の流れには逆らえなかった。
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