■国産車の価格はどうなる?
こうなると頼みの綱は国産車だ。国産車も原材料高騰の影響を受けることは避けられないが、完成車メーカーにとって円安は追い風にもなる。
輸入車に比べれば円安の影響は小さいというのがこれまでの常識だった。しかも、為替差益で稼いだ分を内部留保に回さず、ユーザーにも還元して欲しい――などという希望的観測を抱きたくもなる。
だが、日本の自動車業界の内情をみると、どうやらその期待は裏切られる公算大である。
「輸入する資材や部品が多く、急激な円安進行でコストアップ圧力は想像以上で、このままの販売価格でビジネスを続けていくことは限界に達しつつある」(大手自動車部品メーカー幹部)という声も聞かれる。
自動車産業は半導体不足などの影響で生産が滞っているというニュースがよく流れていたが、部品メーカーの多くは売上をそれほど落としておらず、今年4~6月の3カ月の売り上げが前年同期に比べて増加した企業もある。
にもかかわらず、利益については各社とも大激減。例えば、トヨタ系のデンソーは4割の減益だったが、これはかなりの“優等生”で、8~9割減の大幅減益や赤字転落の企業が圧倒的に多い。
■急激な円安で自動車産業内にも危機感
円安は完成車メーカーにとっては海外での利益が大きく計算されるため、今までは歓迎する傾向が強かった。日本自工会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)はもともと「急激な変動は望ましくない」と、不安定性をリスクとしながらも基本的には円安を歓迎していた。
しかし、円安が加速し、一時1ドル=145円台まで下落した直後の9月22日に行われた経団連のモビリティ委員会後の記者会見では「資源高と円安が同時に進行し、クルマ作りを支える素材・部品業界が大打撃を受けている」と述べ、ようやく通貨安そのもののデメリットに言及し、自動車産業への悪影響に危機感を示した。
トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーは部品や素材メーカーの頑張りに過剰に依存し、定期的に値下げを要請して利益を増やしてきた。が、部品メーカーが瀕死の状態に陥っている今、その手法は通用しない。
■国産車にも「改良を伴わない値上げ」の波が
トヨタは2022年8月末、部品・素材の仕入れ価格の大半を占める鋼材価格について過去最高の値上げ幅となる1トンあたり4万円プラスで日本製鉄と合意した。昨年は日本製鉄の値上げ要求に対して「こんなやり方はない」と不平をブチまけていたのが嘘のようである。
この合意は今後、日本の自動車産業のトレンドそのものを高コスト容認に変えていくものとなる可能性が極めて高い。そして、そのコスト高はそのうち新車価格にも反映されることは間違いない。
こうしたなかで、すでに国産車も値上げの兆しがみられる。スバルは主力モデルであるSUV、フォレスターの価格を平均5万5000円引き上げたほか、マツダや三菱もほぼ改良なしに一部モデルの価格を引き上げた。
猛烈なコストアップはビジネスの工夫で吸収できる域を完全に超えており、それに対応するための“応急処置”でもある。しかも、その程度の値上げは序の口で、今後、各社ともモデルチェンジを機に段階的に値上げに踏み切ることにもなるだろう。
■メーカーのターゲットは海外市場へ?
国内では新車の納期が半年、1年、あるいはそれ以上と非常に長くなり、その反動で中古車の価格も高騰している。新車の値段が安い日本市場より海外へのデリバリーを優先させたいというメーカーの気持ちもわからないでもないが、あまりに極端だ。
しばらくタマ不足状態にしておいてユーザーの飢餓感を煽り、近い将来の大幅値上げの地ならしをしているのではないかという疑念も抱いてしまうほどである。
日本では長らく賃金デフレが続き、国民の購買力は低下するばかりで、岸田政権の最重要政策として唱える賃上げも物価高や社会保障の負担増では焼け石に水である。
その日本で自動車メーカーが大幅値上げに踏み切るのは勇気の要ることだろうが、もしそれが現実のものとなった場合は、国産車メーカーが少子高齢化で将来性がないといわれる日本市場を実質的に“見かぎる瞬間”でもある。
だが、日本経済を取り巻く環境と現状を踏まえれば、それほど遠い日の話でもないかもしれない。
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