トヨタ クラウンの大変革を機に、「フラッグシップサルーン」の存在意義が揺らぎはじめている。「フラッグシップ」がセダンである必要性が薄れつつあるのだ。
そこで本稿では、これまでの国産各メーカーにおけるフラッグシップサルーンの変遷を振り返り、その重要度や果たしてきた役割について考えてみたい。
文/フォッケウルフ
写真/トヨタ、日産、ホンダ、三菱、マツダ
■メーカーを代表するモデルはセダン!?
そもそも「フラッグシップ」とは何だろうか。辞典によれば、その意味は「旗艦(きかん)」、「グループの中で最も重要なもの、あるいは優秀なもの」となっている。「旗艦」と言う言葉も日常生活でそれほど多く聞かれる言葉ではないが、「艦隊の司令長官が乗っている軍艦」のことで、船団の中で最も重要な存在、かつ指揮を取る艦ということだ。
それがクルマで言うところ「フラッグシップカー」となると、端的に言えば「メーカーを代表するモデル」となるだろう。特に数多くのラインナップを誇る自動車メーカーにおいては、非常に重要な存在であり、イメージリーダーでもあり、さらには憧憬の念を抱かれるモデルとなる。
1990年代くらいまで、この座には各メーカーの高級セダンが君臨していて、「フラッグシップサルーン」と呼ばれていた。「フラッグシップカー」としての条件が決まっているわけではないが、高級車であること、最大クラスの大きさがあること、最新技術が搭載されていることなどが挙げられ、これに当てはまったのが、自動車の歴史において長い間”クルマの基本形”とされていたセダンだったのだ。
■クラウンやシーマの歩みが示すもの
トヨタにおけるフラッグシップサルーンといえば、なんといってもクラウンである。かつては「いつかはクラウン」と言われ、トヨタ車に乗る人やセダンに乗っている人にとって憧れの存在でもあったが、1989年に同メーカー内にセルシオが登場すると、その座は怪しくなってくる。
セルシオは、海外名「レクサスLS」で、レクサスのフラッグシップサルーンとして誕生したモデルだ。グローバルで通用するレベルのラグジュアリー性と最新テクノロジーが搭載され、ある部分ではクラウンより強力なカリスマ性を備えていた。結果、クラウンはユーザーから「国内でのフラッグシップ」といった捉えられ方をするようになる。
価格的にもフラッグシップサルーンの座はセルシオに奪われたような印象もあったが、2005年に日本国内でレクサスブランドがスタートしたことに伴い、立場が変化。セルシオが海外と同様、レクサスLSになったことで、クラウンはトヨタのフラッグシップという玉座に舞い戻ったのだった。その後、2022年にSUVに変貌を遂げたことで世間に衝撃を与える事になるのだが……。
トヨタといえば、古よりセンチュリーも最高級サルーンとして存在してきたが、同モデルはあくまでも運転手がいてオーナーは後席に乗るクルマであり、一部の”特別な顧客”に向けたものである。そのため、一般的な意味でのフラッグシップはクラウンだと言っても差し支えないだろう。日産のプレジデントも同様である。
その日産では、1960年代よりクラウンのライバルとしてセドリック/グロリアが高級サルーンとして存在してきたが、1988年にシーマが誕生すると、同車にフラッグシップサルーンの座を譲ることとなった。シーマは発売当初からそのバブル時代の流れにも乗ったこともあり、「シーマ現象」という言葉も生まれるほどのヒット車種となっている。
一時代を作ったシーマだったが、景気の影響もあって2010年に一旦、生産終了に。同時期にセドリックの後を継いでいたフーガが日産のフラッグシップサルーンに返り咲く。2012年にシーマが復活したものの、これはフーガベースのストレッチ(ホイールベース拡大)版であった。
そしてついに2022年、フーガとシーマが共に生産終了となり、一応、現在の日産のフラッグシップサルーンは、ひとクラス下のスカイラインということになっている。
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