■実際乗ってどうだったか
試乗用に用意された『ATTO 3』は豪州仕様の右ハンドル車。正直に言えば短時間の試乗なのでアレコレ言うレベルでもないのだが、全長4455×全幅1875×全高1615mmのボディサイズは数値よりは取り回しがしやすく、都内の道でも使いづらさは感じなかった。
駆動方式はFFのみ、搭載するバッテリーによる最高出力は150kW、最大トルクは310Nmだから走りの点では不満は無い。
何よりも気になる航続距離もスペックとしてはWLTC値(但し自社測定)で485km、EPA換算の推定値で約388kmとのこと。バッテリー容量は58.56kWhなので個人差はあってもEPA数値はほぼキープできるのではないだろうか。
走りに関してはBEVらしく、出だしは滑らかでアクセルを踏み込めば爽快な加速を得ることができる。評論云々言うレベルではなく当たり前の感覚だ。3種類のドライブモードも搭載する。
一方でBEVはモーター駆動ゆえにコンピュータ側のセッティングが比較的容易だ。ゆえに渋滞などが多い日本の道路事情に合わせた細かな制御をどこまで行ってくるかで導入後の商品評価も変わってくるだろう。
室内も必要十分で日本人が好む快適装備類も満載されている。
カーナビ関連の仕事が多い筆者から見ても電動モーターで縦横に回転する12.8インチディスプレイは当初はギミック的に思うかもしれないが、縦型によるカーナビ地図の視認性向上(その先の道路状況が掴みやすい)には間違いなくプラスになるし、その回転機構もステアリングスイッチで操作できるなどUI面でも他社がやりそうでやらなかった部分にコストをかけるなど提案自体は面白い。
ちなみに導入前ということでAppleのCarPlayとGoogleのAndroid Autoには対応していたが、ワイヤレス接続には未対応。そして純正カーナビは導入時までには決まるようだ。
■本当にディーラーを配置するのか?
発表会当日で一番驚いたのが販売方法だ。てっきりボルボやテスラ、またヒョンデのようにネットを活用した販売を行うと思っていたのに対し、BYDジャパンはディーラー網を構築して販売するという。その数、全国で100箇所を目標としているという。
「言うは易く行うは難し」ではないが、最初からハードルを上げてきたな、というのが素直な感想だ。
前述したZ世代であれば、ネット販売へのハードルも低いだろうが、一定期間の間にブランド認知も含めるためにはやはりリアル店舗は重要だ。日本でのビジネスを熟知している東福寺氏が社長に着任している点からも自信はあるのだろう。
ただBYDジャパンの直営ディーラーは持たず、日本各地でこれまでビジネスを展開してきた地場の販売会社と提携することを基本としているので、都道府県に最低でもひとつ、言い換えれば50拠点は思ったより早く整備できると思う。
その点では昨今話題のヒョンデ アイオニック5とは大きくやり方が異なる。成約までのスピード感はネット販売を主とするヒョンデの方が有利だろう。しかし実際のメンテナンスなどは協力整備工場との連携になることからもアフターサービスに差が発生することもあり得る。
一方BYDの場合はそのディーラー網の構築自体に時間はかかるものの、サービスの平準化は行いやすい。そしてディーラー網には重要な充電インフラである急速充電器は設置するという。要は「遠回りしても最後は顧客のためになる」というBYDの戦略がどこまで評価されるには注目したい。
そもそもバッテリーメーカーとして創業し、BEVにも独自の「ブレードバッテリー」を開発し搭載するなど、エネルギー領域では世界でもトップクラスのIT企業である。単純に日本での認知度が低いだけでBEVも20年弱の歴史がある。
それでも筆者のようなオジサンにはまだまだアレルギーがあるのも本音。BYDにはその辺を何とかその部分を取り払って貰えるとグッと身近になることは間違いない。
ちなみに『ATTO 3』の価格はまだ未定だが、試乗した豪州仕様の上位グレードが約450万円だ。ライバルになりそうなアイオニック5が479万円からなので、400万円前半でプライスタグを付けることができればブレイクも夢では無い。
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しかし、今回の原稿を書いていて感じたのはところで日本勢はその後どうした? っていう気持ちだ。
筆者としては何でもBEVというつもりはない。モビリティのエネルギーは適材適所、多様性が求められる。それでも国産のBEVの種類の少なさやインフラ整備などはもう少し頑張って欲しいと思うのは贅沢なのだろうか。
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