今年(2022年)政府の税制調査会にて突如として俎上にのった「走行距離課税」。その内容は「走る距離に応じて税金を増やす」というものだが、これはクルマ業界はもとより、徴収者である国の首をも絞めかねないものだ。
短慮軽率以外の何物でもない「走行距離税」を斬る!
※本稿は2022年11月のものです
文/渡辺陽一郎、写真/AdobeStock(メイン写真=akoji@AdobeStock)
初出/ベストカー2022年12月26日号
■大丈夫かニッポン!? 荒唐無稽な走行距離課税
政府の税制調査会には、走る距離に応じて税金を増やす「走行距離課税」を検討すべきという意見がある。
その理由は、電気自動車(以下EV)の普及により、燃料に課税するガソリン税などの税収が減るからだ。
ガソリン税は、元・道路特定財源で課税の根拠を失っている。
その徴税を続け、さらに今後はEVが増えてガソリン税の税収が減りそうだから、走行距離課税まで持ち出した。
走行距離課税とは、走る距離に応じて課税する制度で、走行距離が長くなるほど税額も増える。
最初の検討段階である現在はEVに対する課税と考えられているが、検討が進んだ際に、EVだけに課税するとEV普及が進まないから、ガソリン車も対象にする……なんてことを言いだす可能性もあるのだ。
この課税を実施すると、困っている人たちをさらに困窮させてしまう。
例えば公共の交通機関が未発達な地域では、年金で生活する高齢者が、買い物や通院のために古い軽自動車などを使っているからだ。
行き付けの開業医では対応できず、遠方の総合病院で受診するためにクルマを走らせると、税金が上乗せされるのだ。
そして走行距離課税は、自動車業界や国の首も絞める。走行距離に応じた課税が始まると「クルマを使うのはもったいない」と考えるからだ。
燃料にも多額の税金が含まれ、走行距離が延びるほど支払う税額も増えるが、ユーザーの意識は「燃料代を払っている」というものだ。
これが走行距離に応じた直接的な課税になると、「クルマを使うと税金も増える」という意識に変わり、その使用に否定的になる。
クルマを使って旅行やスキーに出かける機会が減り、観光地などの売り上げも下がる。そして最後は「クルマを使うと損だから、持たないほうがいい」という発想に至る。
結局はクルマの売れ行きが下がり、消費税を含めてクルマ関連の税収も減るのだ。
初度登録(軽自動車は届け出)から13年を超えた車両に対し増税する制度もひどい。
13年を超えた古い車両は、高齢者、コロナ禍で経済的に辛くなった人たち、納期の遅れで新車に乗り替えられない人たちが仕方なく使っている。
そのようなユーザーから、多額の税金を巻き上げる制度だ。しかも増税の対象には元・道路特定財源の自動車重量税も含まれる。
一般財源の自動車税も実情に合わない。
自動車税の背景には、クルマは高額な財産で、これを活用すれば、さらに多くの利益を得られるという財産税の考え方がある。そこで排気量が増えるほど、財産価値も高まると考えて税額を増やす。
しかし今のクルマは生活必需品だ。流通価値が1万円の車両を所有して、数万円の自動車税、つまり財産税を徴収されるのは筋が通らない。
困っている人たちの視点から、自動車関連の税金をすべて見直してもらいたい。
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