ここ最近、日産やマツダが安全性能向上を理由に先進的なAWD技術開発に力を入れている。どちらのメーカーも優れた技術力を持つが、しかし、多くの識者に言わせると、「横並びで比べると、AWDに関していえばスバルに一日の長がある」とのこと。
たしかに日本においては「AWD=スバル」というイメージが根強い。
各メーカーが力を入れて開発を進めているにも関わらず、なぜいまだにスバルのAWDは一歩先んじているのか? 具体的にどこが優れていて、どういう面で信頼できるのか?
ふんわりとしたイメージではなく具体的なスバルのAWD技術のよさを伺うべく、自動車ジャーナリストの渡辺陽一郎氏に聞いた。
文:渡辺陽一郎
■約半世紀にわたり積み重ねてきた強み
スバルは自動車メーカーの中でも特に技術指向が強く、独自のAWD(4WD)システムと水平対向エンジンを搭載する。AWDの比率は、スバルのグローバル生産台数で見ると、限りなく100%に近い。
この生産状況からも分かるように、スバルのAWDは、水平対向エンジンと併せて重要な基幹技術に位置付けられる。
過去を振り返ると、レオーネエステートバンにAWDを採用したのが1972年だから、50年近い実績がある。
AWDのメカニズムも多様化した。
この中でインプレッサ、レガシィ、フォレスターなど、幅広いスバル車に搭載されるのが「アクティブトルクスプリットAWD」だ。駆動系には電子制御式多板クラッチが使われ、走行状態に応じてクラッチの締結力を変化させることにより、前後輪に最適なトルク(駆動力)を配分する。
基本的なトルク配分率は、前輪が60%、後輪は40%で、前輪がスリップした時は後輪の駆動力を高めて安定させる。常に4輪を駆動するから、走行安定性が高い。
他社のAWDには、通常は前輪駆動の2WDで走り、前輪が空転した後で後輪にも駆動力を伝えるタイプもあるが、これでは車両の挙動が不安定になりやすい。
スバルのAWDは、常に4輪を駆動するフルタイム方式だから、どの車種を選んでも優れた安定性が得られる。
■信頼性が高いうえに軽くて燃費がいい
アクティブトルクスプリットAWDは、前後輪に綿密に駆動力を配分しながら、構造がシンプルで軽いこともメリットだ。インプレッサの場合、AWDの車両重量は、2WDに比べて50kgの増加に収まる。駆動力の抵抗も抑えられ、燃費の悪化も少ない。インプレッサ2.0i-LアイサイトのJC08モード燃費は、2WDが17km/L、AWDは16.8km/Lだから、AWDでも0.2km/Lしか下がらない。
一般的にAWDは、走破力が高まる代わりに、車両重量も大幅に増えて燃費も悪化しやすい。アクティブトルクスプリットAWDは、この欠点を克服した。
ちなみにインプレッサのライバルとなるアクセラは、1.5Lガソリンエンジンと2.2LディーゼルにAWDを設定している。売れ筋の1.5Lディーゼル、ハイブリッドではAWDを選べない。
そしてアクセラスポーツの場合、AWDにヘッドランプウォッシャーなどを標準装着したこともあるが、1.5Lガソリンエンジン車の場合で、AWDの車両重量は2WDに比べて80kg重い。JC08モード燃費も2.6km/L低下した。
インプレッサは、アクセラに比べて、AWDの搭載に基づくデメリットが少ないようだ。
アクティブトルクスプリットAWDが、優れた走破力に加えて軽量化や低燃費を達成できた背景には、スバルにとってAWDが駆動の基本システムに位置付けられることもあるだろう。
先に述べたように、スバルではAWD比率が圧倒的に高く、レヴォーグ、レガシィ、XV、フォレスターなどは2WDを用意しないAWD専用車だ。そうなればAWDの開発にも力が入り、走破力から燃費まで機能が幅広く熟成されていく。
またバリエーションの大半がAWDになると、コストダウンも進むから、スバルの場合はAWDの価格も安い。インプレッサでは、2WDとAWDの価格差を21万6000円に抑えた。
従ってスバルのAWDは、購入時の少ない出費で走破力と安定性が高まり、購入後には燃料代の上乗せが抑えられて、加速性能もほとんど悪化しない。数あるAWDの中でも欠点が少なく、多くのメリットを得られるから合理的で買い得だ。
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