日本の自動車メディア業界において評論家陣の高齢化は激しい。しかし、高齢者には高齢者の武器がある。それは経験であり、知見である。
当連載では、2022年いよいよ還暦を迎えたベテラン評論家の清水草一が、その波乱の生涯において経験してきた、クルマにまつわるあれやこれやを解説。おっさんが、これからの時代のカーマニアたちに昭和の知識を伝授する!
文/清水草一
写真/フォッケウルフ
■古墳テクニックは死なず!?
昭和の運転テクニックのひとつに、「ポンピングブレーキ」があるっ! 昭和において、ポンピングブレーキは猛烈に重要なテクだった。なぜなら、まだABS(アンチロックブレーキシステム)が普及していなかったからだ!
乗用車には、2010年からABSの装備が義務付けられた。実際にはABSじゃなくESC(横滑り防止装置)の装備が義務付けられたんだけど、ABSがないとESCにならないので、実質的にはABSも義務ってわけだ。いま路上を走っている乗用車のほとんどに、ABSがついている。ABSが普及した今、ポンピングブレーキは百害あって一利なしの古墳テクと思われている。
たしかにそういう面もあるだろう。ポンピングブレーキは、ブレーキがロックしないように、ポンプみたいにブレーキペダルを踏んだり離したりするテクのこと。そんなもんより、電子制御で踏んだり離したりしたほうが、1万倍くらい制御が精密だ。
人力でポンプするより、蹴飛ばすくらいブレーキペダルを強く踏み、そのまま渾身の力を込め続けて、あとはABSに任せたほうが、短い距離で止まれるに決まってる!
しかしそれでもポンピングブレーキは死なず! これができたほうがエライし、ごくまれには役に立つ!
今でも教習所ではポンピングブレーキを教えているという。なぜ? おっさんはその事実にビックリだが、昭和時代は、ポンピングブレーキは絶対的な正義。ポンピングブレーキができなければ男じゃない! くらいの勢いで、過剰なポンピング神話がはびこっていた。
■ABSがない時代のポンピングブレーキ
実際にいつでもどこでもポンピングブレーキをやってると、減速Gが変化しまくって、同乗者はキモチ悪くなってしまう。
がしかし、ポンピングブレーキの役割は、ブレーキロックの防止だけに非ず! ブレーキランプを点滅させて、後続車に減速を知らせるという重要な役割があると教えられていたため、私の場合、オカマを掘られないように、まずブレーキペダルをパカパカと浅く踏んでブレーキランプを点滅させ、その後減速Gが出るようにフツーにブレーキを踏む……ということをやっていた。通算10万回くらいやった。
なぜそんなにオカマを恐れていたのか? 今では謎に思えるだろうが、なにせ当時のクルマには、ABSがほぼついてない。タイヤもプアなクルマがウヨウヨしてて、雨の日などは簡単にブレーキロックが起きる。だから「オカマ掘るなよ~~~~っ!」って感じで、いつでもパカパカやっていたのである。ご苦労様な話だ。
さすがにこういうパカパカは、現在は必要なかろう。というより百害あって一利なし。後ろのクルマがまぶしいだけで、「バカか?」「あおってんのか?」と思われてしまう。
ブレーキロックを防ぐためのマジなポンピングブレーキは、サーキット走行で必要だったため会得した。富士スピードウェイのストレートエンドなどのフルブレーキング時、ブレーキロック寸前を敏感に感じて取って、ちょっとだけブレーキを緩め、また即座に踏むという感じで、ポンプみたいにパコパコと踏んだり離したり~じゃなかったが、できるだけ短い距離で減速したい、そうしないと死んじゃう! みたいな状況で、ブレーキペダルを緩める根性を体得した。男は根性があれば8割のことは成し遂げられるのである。
しかしそれも、ABSが普及した今は、ほぼ必要なくなった。なのになぜ、「ポンピングブレーキは死なず!」なのか。それは、ABSが効いている状態よりも、ブレーキがロックした状態のほうが短い距離で減速できる状況が存在するからだ!
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