【伝説のランエボ 開発秘話に迫る】レースでも勝つために織り込まれた戦略と勝利

【伝説のランエボ 開発秘話に迫る】レースでも勝つために織り込まれた戦略と勝利

 国産車のライバル対決といえば必ず出てくるのがランサーエボリューションとインプレッサの2台だろう。

 WRCという世界最高の舞台でしのぎを削り、その圧倒的な旋回性能、そしてトラクションでそれぞれのキャラクターを際立たせた2台。

 前回はランエボとインプレッサのそもそもの開発背景を紹介したが、今回からはそれぞれの開発の具体的な内容を紹介したい。

 今回は「エボ使い」中谷明彦氏がランエボ進化の裏側を語ります。

文:中谷明彦/写真:ベストカー編集部


■エボ使い中谷明彦が語る”打倒GT-R”の思い

 今回はランエボ(以下エボ)IV~VIについてのお話だ。エボIVが登場したのは1996年後半。その頃の僕はと言えば三菱のGTOでN1耐久レース(現在のスーパー耐久)の1クラスを闘っていた。

 1994年に参戦を開始し1996年は3シーズン目にあたる。1クラスでのライバルは日産スカイラインGT-R。

 当時はR32型〜R33型への移行期で、5〜6台のGT-R勢を相手に善戦していた。

 優勝こそ叶わなかったが、ポールポジションを獲得したり、2位表彰台に登ったこともある。

GT-Rへの対抗馬として期待されたGTO。その戦闘力は中谷氏も認めるものだったが諸々の事情でランエボの進化に夢は託された

 しかし日産ニスモが日に日に開発を進め速さを増していくなかで、三菱GTOの開発テンポは充分とはいえなかった。

 ひとつには三菱が本当にGTOでGT-Rに勝てるのか懐疑的だったことがある。レギュレーションの関係で3LのGTOは2.6LのGT-Rより重量で80kgものハンデを負わせられていたことも影響が大きかった。

 だがドライバーとしてはGTOの可能性の高さを強く感じていた。

 前後駆動力配分を持つGT-RよりGTOのほうがコーナーで速かったことを実際にレースドライバーとして闘っていた僕は確信できていたからだ。

ランエボの旋回性能は非常に高いところにあったが、GT-Rに勝つためにはより強いマシンへの進化が必要だった

 エンジンの排気量を落として2.6LのGTOを販売して同じ重量とすることを進言したし、それが叶わないならフロントLSDを装着してほしいと懇願もした。

 だがエンジンはコストの問題で、LSDはスペースの問題で収まらずGTOからエボへの車両変更の可能性が浮上してきたのだ。

 そこで僕に課されたのはGT-Rに勝てるエボとするのはどうしたらいいか、という難題だった。

■ランエボV誕生に向けて無理な注文をしてみた

 そこでまずはエボIVの開発後期に関わり、改善項目を列挙してエボVへ取り入れてもらえるように提案した。

 だがその内容の多くは三菱のエンジニアにとっては無理な注文だったはず。エボIVからエボVに向けての要求項目の最大点は「車体の軽量化」と「高剛性化」だ。

 この相反する要求を解決するために車体を構成するスチールパネルをすべて薄板化する。またサイドやリアのガラスをも薄板化して軽量化することを提案した。

 ところが、これが意外にもすんなりと通ってしまった。

ランエボVには中谷氏の要求が多く取り入れられている。ラリーのみならずレースでも勝てるマシンになった

 ちょうど燃費性能を高めるためにボディ構成パネルの薄板化が検討されていた時期と重なったこともあり、実験車的にエボVのRSにのみ採用が可能となったのだ。

 さらにフロントとリアのフレームエンドを補強するバーの装着。ブレンボの対向ピストンキャリパーを装備させること、サスペンション構成アームパーツのアルミ軽量化などなどだ。

 これらの効果はちょうどJTCCでシュニッツアー・BMWが同じ手法を採用していて効果の高さを証明してくれていたから有効性は疑いがなかった。

 さらにタイヤのサイズアップの重要性を説いて採用される。

 こうしてでき上がったエボVは、初走行の時に驚異的な速さを示していた。GTOで叶えられなかったフロントLSDはもちろん、リアにもLSDが用意されていた。

 またボディをオーバーフェンダーで拡幅しトレッドを拡大して3ナンバー化してまでして要望した225サイズのタイヤを設定してくれたのだった(本当は235がよかったのだが)。

 トランスミッションはクロスレシオ化し、高速サーキット用と低速コース用の2種類を用意。

 1〜3速はダブルコーンシンクロでギア歯面にショット加工を施し「中谷シフト」に耐えるようにしていたんだよ。

 エボVのGSRにはエボIVから継承したAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)が装着されていて、Vで受けた改良効果との相性も抜群で軽量のRSに勝るとも劣らないコーナリング性能を発揮。

 そこでN1レースでもAYCの導入を求めた。エボVのN1仕様は目論見どおり素晴らしい速さを示して1998年シーズンはチャンピオンを獲得した。

 R33型に進化したばかりのGT-Rの何台かも撃破したが、総合優勝まではまだ時間がかかった。

 エボVIになるとさらに多くの意見が取り入れられた。まずフロントバンパーのデザイン変更が目新しいが、あれは僕のデザインデッサンが採用されたものだ。

 またエボVではフロントのロールセンターを高めコーナリング時の姿勢安定性を獲得していた。

WRCではトミ・マキネンがランエボを駆り圧倒的な強さを魅せた。市販車ベースのランエボはランエボVIが最後だった

 しかしオフロードラリーのドライバーやジムカーナ系チームから「タイトターンで曲がらない」という意見が多く出て、ローロールセンター仕様も用意されることになる。

 でも結局ハイロールセンターのほうが結果がよく、ローロールセンター仕様は廃止されることになる。

 エボVIにはTME(トミーマキネンエディション)が最後期に設定されたが、そのバンパーデザインや走りをセッティングしたのもほとんど僕だよ。

 高速走行での空力特性向上を狙ってCd値を低減するデザインとしたんだ。

 WRC(世界ラリー選手権)でもターマック(舗装路)での高速ラリーが増えていてN1レースでチューニングした方向性が受け入れられ好成績に繋がった。

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