時代が変わり、日産の「お荷物」に
90年代中頃からは、車高が高くて走破性のあるクロスオーバーSUVや、使い勝手のよいミニバンなど、車種の多様化によって、高級セダン市場は一気に縮小。セド/グロも2004年に「フーガ」と車名を変更してデザインも大幅に変え、現代的で洗練されたスポーティさを手に入れたのだが、残念ながらセダンから離れてしまったユーザーを再び取り込むことはできなかった。
当時は景気の後退により、大排気量エンジンを搭載した高級セダンは敬遠されがちだったし、若者は合理的なパッケージングを求めるようになっていた。同時に自動車業界は気候変動対策を意識したクルマづくりにシフトし、人気が低迷するカテゴリーに大規模な投資をするようなリスクは負えない状況。
2010年に世界初の量産バッテリーEV「リーフ」を据え、バッテリーEV界隈で一時先行した日産にとって、伝統的なフラッグシップでありながら販売台数の振るわないシーマとフーガは、ある意味、日産にとって「お荷物」になってしまっていたのだろう。「フラグシップは存在するべき」といった伝統的な考えを改革する上でも、このタイミングで廃止となったのは仕方のないことだった(すこし遅かったくらいだと思うが、日産としても断腸の思いだったのだろう)。
シーマ・フーガという名を復活させる意味はないのでは
昨年2022年は、販売終了となったシーマ・フーガとは対照的に、アリアの順次納車開始とグッドデザイン賞受賞、サクラの投入、リーフの改良モデル投入など、バッテリーEVに関してトピックを次々に重ね、存在感を増した年だった。アリアに関しては、高級感、デザインや先進技術へのこだわり、「英知を宿すモンスター」という迫力のあるキャッチコピーからすると、現在の日産の実質的なフラッグシップと考えてよいだろう。
クラウンがクロスオーバーSUVとして登場しその伝統的なネームを残したのに対し、日産はフーガ・シーマの名前を廃したわけだが、これは日産とトヨタの戦略の違いも関係していると思われる。EV化に大きく舵を切った日産に対して、トヨタはまだ国内でのハイブリッドの人気が高く、またICE(内燃機関エンジン)による気候変動対策の可能性も捨てていないからだ。
アリアの登場は、高級車を含めて全く新しい日産のイメージをユーザーに持ってもらうために必要だった。そのため、たとえバッテリーEVとしてでも、シーマ・フーガ後継車として復活させる意味はあまりないと筆者は考える。もし、アリアよりも上位モデルを将来的に据えるとしても、フーガやシーマという名前にこだわる必要もなく、新たなネーミングのほうがよいのではないだろうか。
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「フラグシップ」とは、偉い人たちが後席に乗る社用車のためとしてつくるわけではなく、伝統的な価値観を重視するユーザーのために、メーカーとしての技術力とプライドをアピールする、「イメージリーダー」だ。シーマ・フーガをいまの時代に合わせたモデルとして登場させるという方法もあるだろうが、日産がそれをやろうとしているのなら、モデル廃止前にやるだろうし、日産としてはシーマ・フーガのイメージを廃したかったのだろう。やはりシーマ・フーガの復活の道はないと考えるしかない。
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