今や“人間100歳時代”。まわりを見ればパワー溢れる中高年も多い現代。ふと乗り物に目をやると、昔から走っていそうな古めのバスや電車などが目立つ。人間同様、年月が経っても元気です。
「新車を導入して何年使っているんだろう」と思っていたら、最初から古いまま、つまり中古車を導入していりケースは珍しくないらしい。その業界に需要があるから中古モノが出まわるわけだが、でもなぜ中古を導入? その費用は?
乗り物界の新型導入事情、探ってみようじゃないか。
※本稿は2019年2月のものです
文:末永高章、ベストカー編集部/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2019年3月10日号
■バスの世界 ── 路線バスの60~70%は“もともと”中古車
まずは身近なバス。実は担当、世間で走るバスはほとんどが新車から走りだしていると思っていた。が、さにあらず。業界の中古車の事情を弊社発行「バスマガジン」の末永高章編集長に語ってもらった。
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現在、日本を走っている路線バスのうち、全国的には60~70%ほどは中古車といえる。ただし都市生活者が目にする車両はほぼ100%が新車、地方で見る場合は80%ほどが中古車という分布といえる。
大型で1台4,000万円以上という価格のバスは、いくらバス事業者とはいえホイホイと新車を導入するわけにはいかない。新車を計画的に導入できるのは、鉄道系事業者や公営など、多くの営業距離数を持つ大手だけだ。
では、中小のバス事業者の車両導入は? というと、これはもう大手から流れる中古を買うことになる。それも乗用車のように中古車店で買うという場合は非常に少なく、多くの場合、大手A社と中小B社が協定関係を持っており、たとえばA社で導入した新車を6年後にはB社が中古導入する、というシステムになっている。バスの場合、これを“移籍”と呼んでいる。
そしてもうひとつのパターンが大都市部から地方へと移籍されるケース。これも大手から中小へという事情もあるが、それとは別に排出ガス規制対応のためと、バリアフリー化のためという背景が。
現在の日本の大型車に対する排出ガス規制は、世界一厳しい「ポスト・ポスト新長期規制」。これは大都市圏のみが対象で、地方ではまだ指定されていない。
よって、かつて大都市圏を走っていた現在の規制対策車ではない(それ以前の排出ガス規制対策)バスは、法律上、大都市圏を走れないので、地方の事業者へ移籍させた方が、大手事業者としてもありがたいという図式となる。
ノンステップ車など、スロープでクルマ椅子も乗車できるバリアフリー対策車も同じ理由。東京や大阪ではすでにステップのある大・中型バスは営業運行できないため、乗降ステップのある車両も同様に、地方の事業者へ移籍させるしかないのだ。
■鉄道車両の世界 ── 都会の車両が地方へ、世界へ
お次は鉄道の中古車両事情、どんな感じなのか?
鉄道車両はとにかく高価だ。大手私鉄企業ならば新車をどんどん購入できるけれど、地方の中小私鉄にとって新車購入は経営を大きく圧迫する。だから、大手私鉄でお役ご免となった車両が中古車として地方私鉄に譲渡されるのはごくごく普通のこと。
ちょっと前の鉄道車両は寿命40年程度に設定されていたから、メンテナンスをしっかりすればまだまだ使えるし、最近の車両よりも頑丈で壊れにくいという利点もある。
関東だと埼玉県の秩父鉄道には元東急の8500系や8090系といったステンレスボディの近代的な車両が中古として走っている。都営三田線で走っていた6300系も走る。こちらは熊本電鉄にも譲渡されて今も現役だ。熊本電鉄には東京メトロ銀座線の01系も走っている。
ちなみに秩父鉄道では、数年前まで元国鉄の通勤電車の代表車両101系も! 廃止直前には中央線のオレンジ色などに塗り直されて、懐かしいシーンを再現していた。
京王電鉄の古い車両5000系が千葉県の銚子電鉄や山梨県の富士急行、四国の高松琴平電鉄や島根の一畑電鉄に譲渡されているケースもある。面白いのは、ほかのケースでは線路幅(軌間)が共通な路線同士での譲渡なのだが、京王電鉄は特殊な軌間を採用しているため、譲渡に際してわざわざ改造をしていたこと。丁寧な受け渡しだ。
最近では海外へ中古車両が輸出されるケースも多い。JR東日本武蔵野線の205系や東京メトロ有楽町線の7000系がインドネシアに輸出されている。日本の誇れる中古モデルが世界で活躍中だ。
■軽トラック ── クロカン走行のために購入されるケースも
庶民の力となる働くクルマの代表選手。存分に働いてもらうために中古車を一気に購入する会社や、農家の方が個人購入など需要は高い。
さらに、頑丈なフレームを活かしてクロスカントリー走行を楽しむために中古軽トラを購入する人もいる(もちろんMTモデル)。それらのニーズに応えるために中古軽トラを扱う専門店もあるほど。

企業のまとめ買いもある中古軽トラック。ニーズの高さから中古専門店もあるという。平成30年式スズキキャリイ(走行2000㎞)が110万円という掘り出しものもある
■農機具業界 ── 中古をバリバリ活用中!
こちらも当然新車が欲しいが、最初のバス同様、新車トラクターが1000万円もする世界。
農家のみなさんはお古の農機具を購入して畑で使うケースも多いという。中古農機具を扱うサイトも充実し、例えばJA関連のJUM(全国中古農機市場)にはクボタやヤンマーなどのトラクターやコンバイン(稲刈り機)などの中古モデルが充実。
例えば1318時間使用のヤンマー・トラクターが55万円。日本の食を支えてほしいです。

丈夫で壊れないので中古が人気。またバス同様に海外でも日本製は人気。東欧のモルドバ共和国で活躍する日本製コンバイン
■船舶業界 ── 上玉の船は早めに売れる!
船といっても客船、交通船、趣味のボート、漁師船などがあり、今回、それらの中古を販売する(株)YSの担当者へ取材。その情報をご紹介。
全般としてAクラス(15~20年落ち)、Bクラス(20~30年落ち)、Cクラス(30年落ち以上)に分かれており、中古の流れはバス業界と酷似。大手船舶会社の払い下げを中小、零細企業は待っている状況。
上玉のAクラスの船は早めに売れ、Cクラスはフィリピンなどの東南アジアの人が買うことが多い傾向という。だから、YSのWEB上には英語表記もある。
■重機業界 ── 中古購入やレンタルが浸透
写真はコマツタイヤショベル(2008年式)。中古価格880万円。重機業界にも中古での購入やレンタルが浸透している。新車は大手企業が購入し、数年後そのお古を中小が専門店やネットで購入する、という図式だ。それで業界がうまく循環しているという。
作業現場では数多くのタフな中古モデルが活躍中だ。
■【インタビュー】 銚子電鉄の社長さんに直撃「中古車両っていくらなんですか?」
前項のレポートにも登場した千葉県の銚子電鉄。今回、竹本勝紀社長に話を聞を聞くことができた。ご紹介しよう。
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■現在走っている車両は何でしょうか?
現在、2両1編成で全3編成。すべてもともと京王電鉄で走っていたものです。例えば1962年製2000形。京王のあと、四国の伊予鉄道で走っており、48年落ちで私どもが購入しました。ちなみに私と同じ年の現在56歳。なので私も中古(=中年)です(笑)。
■以前から京王電鉄からの購入(譲渡)だけですか?
いえ。たとえば長野県伊那鉄道や滋賀県近江鉄道で新車として走っていた車両を購入したり、東京メトロの銀座線や丸の内線で走っていた車両も。
■56年前の車両、今走らせても大丈夫なんですか?
鉄道の「法定対応年数」、電気車両が13年、ディーゼルは11年です。でもクルマと同様、新型から13年すぎてもメンテして減価償却するまで使う、というのが通常です。ちなみにクルマ同様車検があり、3年に1回。費用は約1500万円かかります……。
■購入した時の価格を教えていただけませんか?
一般的に電気の鉄道車両は1両=約2億円。シートや内装などオーダーメイドの部分があるので。先ほど話に出た1962年製48年落ちの車両、伊予鉄道から1両12万円で購入したんです。でも、船での運搬費が4両で3000万円かかり、その後、“ワンマン運転”用改装費などで、もとの4両=48万円が、1億6000万円ほどに。新車の1両=2億円よりは安いですけどね(笑)。
■【番外コラム】 LCC業界は中古旅客機を使っているのか?
LCCは「中古旅客機を使っている?」という噂あり。(株)ソラシドエアへ聞いたところ「確かに以前はボーイング737-400という中古モデルを使っていました。飛行には直接影響しませんが、飛行の安定を図るために現在は737-800という新規モデルを13機使っています」。物凄い投資だ!

これがボーイング737-800