■「稼ぐ力」を示したトヨタ だが油断は禁物だ
キャズムを超えるには、EVの価値を大きく進化させることが必要です。
もっと使いやすく廉価で、かつ魅力的なユーザー体験を提供できるEV。それこそが、ソフトウェアが主導するサービス志向の車両、ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)で、SDVとEVが紐づいていく進化が必要となるのです。
テスラはその進化を誰よりも早く遂げるためのモノづくり革新に取り組み、先行投資を続けています。そんななかで現在の苦悩があるわけです。
トヨタの2023年のEV販売台数は22万台から12万台へ下方修正されましたが、営業利益は3兆円から4.5兆円に上方修正となり、喝采を浴びました。しかし、2026年のEV販売目標の150万台はまず達成が不可能な状況です。
同業他社以上に稼ぐ力を示せたトヨタは立派ですが、ここで油断してはいけないのです。「EVでも強いトヨタ」を実現して初めてマルチパスウェイ(全方位)戦略の基盤が堅固になると筆者は考えます。
■先行したEV専業メーカーが苦戦している今こそ、日本車メーカーが差を詰める好機
伸び悩む先進国のEV市場を余所目(よそめ)に、「それ見たことか」と一部には日本のEVフォロワー(追従)戦略を讃える声も聞こえてきます。
しかし、本当にそれでいいのでしょうか?
2023年のCOP28において各国の削減目標の引き上げが論議され、2024年のCOP29においては、2035年の新たな目標設定の数値が煮詰まるはずです。
2025年以降、再びEVシフトへの熱量が増大することは必至な情勢です。
先行したEV専業メーカーが苦戦している今こそ、差を詰めキャズムの先へ進む好機が日本車メーカーに訪れていると考えるべきです。
莫大な利益が出ているからと言って、油断することが最も危険です。
わずか4年前の中国では、新エネルギー車は本当に売り辛かったのですが、今は大衆マーケットにまでEVの価値が届き始め、キャズムの先へどこよりも早く進みました。先進国においても、近い未来にこういった転換点が訪れる可能性はあります。
EVの普及だけで世界のカーボンニュートラル(CN)が実現できるとは誰も考えていません。
でも、EV普及なしにCNを実現できる議論も存在しません。
EVシフトが蓋然性の高い未来シナリオであるのなら、今こそ世界で戦えるEV戦略を遂行し、追いつく好機でしょう。
●中西孝樹(なかにしたかき):オレゴン大学卒。1994年より自動車産業調査に従事し、国内外多数の経済誌で人気アナリスト1位を獲得。著書多数
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