「トヨタオワコン」とまでこれまで言われて来たが、ここに来てEVシフトの厳しさとハイブリッドの優秀さに気付き始めた世界の自動車メーカーたち。百年に一度の自動車改革で奮闘を続ける日本の自動車メーカー、基幹産業を支える自動車産業の弱点は……「日本政府」?
※本稿は2024年3月のものです
TEXT/池田直渡、写真/Adobe Stock、首相官邸、TOYOTA(トップ画像=IBA@Adobe Stock)
初出:『ベストカー』2024年4月10日号
■世界が「EVのデメリット」に目を向け始めた
昨年(2023年)末あたりから、世界の電動化の議論に明らかに変化が起こっていることを読者の皆様も感じておられるだろう。
「内燃機関はオワコンで、まもなく完全電気自動車への破壊的イノベーションが始まる」という勇ましい議論が、だいぶトーンダウンしている。
あれだけ強硬に「日本出遅れ」、「トヨタオワコン」論を展開してきた日経新聞ですら『欧州3台に1台がハイブリッド車 EVシフトは見直し必至』などという記事を書き始める始末。あまりにも華麗なる手のひら返しにこちらが赤面しそうになる。
実際のところ、EUが推進してきた「EVシフト」は予定どおりに進んでいない。
その最大の理由は、各国政府がいくら笛吹けど思ったようにEVが売れないことにある。イニシャルコストでも利便性でも、ICE(内燃機関車)に及んでいない現実のなかで、高くて不便なEVを買う人は少ない。
ただしこのEV議論の難しいところは、「誰にとっても不便なのか」と言えば、特定の使い方をする人にとってはメリットがある、ということだ。
例えて言えば、「世界的に靴のサイズは26センチに統一する」みたいな話で、サイズが合わない人はいくら補助金を積まれても合わない靴は買わない。一方でサイズが合っている人が「ボクはそれで全然困ってない」と頓珍漢なことを言うので永遠にすれ違うのだ。
■日本が「EV全力推進」に舵を切った政治的な事情
EU各国では環境相に左派の政治家が就任することが多く、彼らは大抵が環境原理主義者なので、基本的な考え方は「環境問題に盾突くヤツは許さない」というスタンスになる。
言うまでもないが環境問題には一応の正義があるので、当然ながら反論は遠慮がちになり、そうこうする間にたいした議論もないままルールが決められてしまう。
悪いことに、ここに米国の世界最大の投資会社であるブラックロックなどのESG(環境・社会・ガバナンス=企業統治)活動が結びついていく。
この動きに追随する各国の投資会社がESGを軸に環境投資でのアドバンテージを取るために、ロビー活動を繰り広げ、各国の政府や官庁が取り込まれていった。環境にお金が結びついて一気に怪しくなったわけだ。
保険会社などの大口投資家は、その投資運用において、たとえば石油産業などへの投資を行えば「環境破壊企業への投資を行う悪徳企業」などと環境系NPOなどから名指しで責め立てられた。トヨタもまさにこのネガティブキャンペーンを散々やられていた。
環境系NPOはさまざまな媒体に一方的な意見広告を出したりタイアップ記事を出したりして、潰したい企業の資金源を絶っていった。
そういうテロと見紛う活動で、攻撃を避けた投資マネーは否応なく環境方面に向かう。あらかじめそういう事業へ投資している連中は株価が上がって儲かるという仕組みである。
そういうタイミングで、我が国でも菅義偉政権が誕生する。菅義偉という人はもともと首相になるという将来ビジョンを描いていなかった人で、安倍晋三首相のもとで官房長官として辣腕を振るった結果、棚ぼた式に首相になった。
首相になったはいいが国政の確たるテーマなんてもともとあるわけがない。そこへ環境派のロビイストが近づいて、「グリーンとデジタルを軸に据えれば安倍さんを超えられる」と囁いた。
その結果が、第二百三回国会での所信表明演説の「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です」というスピーチになっていく。環境派の意見に懐疑的だった安倍氏の逆を行く戦略である。
神奈川を地盤とする菅氏は、地盤のつながりで小泉進次郎氏と河野太郎氏の後ろ盾となっており、彼らのどちらかを岸田首相の後釜に据えることで影響力を行使しようとしている。悪いことにこのふたりともEV推進派である。
そもそも菅氏の最大の特技は、国政の経歴中に培ってきた霞が関に対する人事権掌握で、その力をベースに霞が関に多大な影響力がある。役人としては歯向かいにくい相手なのだ。
さて、ここまでが大きな流れとバックグラウンドである。そういうなかで、いま各官庁のスタンスがどうなのかを見ていこう。
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