ホンダオデッセイがフルモデルチェンジ。背が高くなりスライドドア採用とフツーのミニバンっぽくなったけど、乗ってみると重心が低くて乗降性がいい。もちろん走りもいいが、伝統の乗用車ライクにミニバンらしさも加わった感じ。5代目にして器量が広がったな、オデッセイ!(本稿は「ベストカー」2013年12月10日号に掲載した記事の再録版となります)
文:鈴木直也、編集部/写真:森山敏一
■目指したのは「美×力」
1994年に初代オデッセイが登場して以来、ホンダは「低さ」にこだわってきた。
初代の全高が1645mmだったのは、当時の狭山工場の生産ラインの制約からだったといわれているけど、それが結果的に「これまでになかった乗用車ライクなミニバン」というヒットにつながる。これが、オデッセイにおける「成功体験」となったんじゃないかと思う。
で、キープコンセプトの2代目を経て、3代目、4代目は立駐OKの1550mm以下と、その“低さ”を貫いてきた。
クルマを走りの面から捉えれば重心の低さというのは絶対的な“善”で、どんな小細工をしても重心の高いクルマは低いクルマに勝てない。レース好きのホンダの人たちは、心情的に重心の高い箱形のミニバンは作りたくなかったのかもしれない。
ところが、ホンダのこういうコダワリとは裏腹に、市場トレンドは「ミニバンは低さより大きなスペースだよね~」という方向に流れてゆく。
軽からラージクラスにいたるまで、ミニバンはとにかく室内空間が広くて使い勝手のいいクルマが受ける。電動スライドドアなんか、今やあって当然の基本装備だ。
このへんが、オデッセイ低迷の原因となった。
乗用車ライクということでスイングドアにこだわってきたことも裏目に出て、ピークで年間12万台以上だったオデッセイの販売台数は、直近では1万台を切るところまでダウン。
ついに、ホンダも重い腰を上げざるを得なくなったというわけだ。
【画像ギャラリー】走りよし! 広さも充分!! フツーのミニバンっぽくなったけど「らしさ」健在!!! 5代目オデッセイ試乗プレイバック(18枚)画像ギャラリー■低重心にこだわり、走りにこだわった

だから、5代目となる新型オデッセイは、一見してオーソドックスなミニバンに生まれ変わった。
1695mmの全高はエスティマより50mmほど低いものの標準的なミニバンプロポーションだし、左右スライドドアやラウンジ風の2列目シート採用など、居住性/使い勝手についても素直に業界トレンドを踏襲している。
かなり個性的だった先代と比べると余計にそう思うのかもしれないが、「ものすごく普通のミニバンになったねー」というのが第一印象だ。
ただし、このへんがいかにもホンダらしくて面白いところなのだが、乗ってみるとこの新型オデッセイ、そんなに平凡なクルマじゃなかった。
ポイントは、一見普通のミニバンっぽい衣をまとってはいるが、ホンダは依然として低重心にこだわっていることだ。
ルーフ高は従来比150mmも高くなったが、燃料タンクや排気系を薄型設計とすることでステップ高で300mm、フロア高で370mmという低床パッケージを実現。左右のスライドドアを開けて真横から見るとよくわかるんだけど、フロアがとにかく低くて薄いことにビックリする。
また、前ストラット/後トーションビームのサスペンションも新設計で、フロントにアルミ鍛造ロアアームを使うなど高品質。さらに、電動パワステはZF製を採用するし、ダンパーはザックスの振幅感応型が使われるなど、随所に走りへのこだわりを見せている。走りの味つけも、従来までのオデッセイの路線からひとひねりある。
これまでのホンダだと、重心の低さや高品質の足といった“武器”をもらうと、それをすぐ“スポーティな走り”の実現に投入しがちだったが、今度のオデッセイは「ミニバンとしての走りのクォリティとは何か?」をしっかり考えている。
たとえば、操舵フィールは自然だけれどやや遅めで、舵角に応じてプログレッシブにロールするハンドリングは、キビキビ感を前面に出していた従来モデルとはかなり路線が違う。
ただし、そのかわりそのロール感覚には低重心/低ロールセンターならではの安心感があって、操舵ですぐヨーが立ち上がるタイプの足より、2列目、3列目パッセンジャーのストレスがずっと少ない。
また、路面からの入力についても、標準モデルではもちろん、10mmローダウンサスに18インチを履くアブソルートEXでも、しなやかと表現したい上質なもの。
ザックスのダンパーや入力分離マウントなどが、「なるほどこのへんで効いてるのね」と納得できる乗り味なのだ。
【画像ギャラリー】走りよし! 広さも充分!! フツーのミニバンっぽくなったけど「らしさ」健在!!! 5代目オデッセイ試乗プレイバック(18枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方