三菱が満を持して開発をしたエクリプスクロス。オンロード志向のSUVではあるが、そこは三菱が培ったS-AWCを採用しているだけに期待が持てそう。
そこで今回は国沢光宏氏が北海道の雪上クローズドコースでエクリプスクロスの限界性能を試しました。安定志向で「曲がらない4WD」だったアウトランダーからの変化はあったのか!?
雪上(ときどき氷上もあり)の路面をエクリプスクロスはどう走ったのか。レポートします。
文:国沢光宏/写真:三菱自動車
■「曲がらない=安全」は4WDの間違った公式だ!!
ランエボ全盛時代の三菱自動車が追求していたのは「曲がる4WD」である。そもそも、基本的な特性として4つのタイヤに駆動力掛けるとアンダーステアになってしまう。
プッシュアンダーと呼ばれる通り、後輪が曲がろうとする前輪を押してしまうのだった。
このアンダーステアを封じ込める技術を開発しない限り、意のままに走る楽しい4WDなど実現出来ない。参考までに書いておくと、同じ悩みをスバルも持っていた。
初代レガシィはリアサスを工夫。ハンドル切った時のロール使い「曲がるハンドリング」を実現している。
当時、三菱自動車はギャランVR-4という2リッター4WDターボ車をラインアップしていたけれど、こらもうアンダー大魔王のようなクルマだったことを思い出す。そいつに対する回答がランサーです。
センターデフを積極的に使い前後の駆動力配分でプッシュアンダー対策したり、左右の駆動力配分にもトライするなど、スバルと違うアプローチでのアンダー対策を始める(少し遅れてスバルも駆動力配分技術に注力していく)。
1996年の『エボ4』から採用されたAYCにより、もはや「曲がる4WD」が三菱自動車のイメージになった。
しかし! 今回判明したのだけれど、三菱自動車の経営状況が悪化し、WRCから撤退し、経営陣が代わり開発メンバーも入れ替わるや、突如「曲がる4WDなんかダメだ!」という流れになってしまったという。
具体的に言えば「後輪が流れたら事故に直結するので危険!」という方向に向かったそうな。「アンダーステアこそ安全。曲がる4WDの全面否定」である。
その代表作が私の乗っているアウトランダーPHEVだ。雪道だとどの速度域でも、どんな乗り方しても笑っちゃうくらい徹底的なアンダーステア。低い速度域で頑固かつテクニックじゃカバー出来ないほどで、突っ込むしかない。
このクルマを開発した2010年あたりは、アンダー崇拝主義者の全盛期だったことだろう(ちなみに2006年にWRC撤退)。
■エクリプスクロスは「曲がる4WD」が復活の兆しだ
前置きが長くなった。現在、三菱のなかにアンダー崇拝主義者は完全に居なくなったという。なにしろ試乗会で見かけた技術者、皆さんランエボを作っていた方々ですから。
ここまで読んで頂ければ、クドクドとエクリプスクロスの試乗レポートなんか読まなくたってイメージ出来ると思う。三菱自動車の4WD、再び輝き始めそうな雰囲気が出てきました。
なんたって試乗会自体「思い切り楽しんでください!」。気を付けろとか、スピードを抑えろ、なんてヤボなことは言わない。
お言葉に甘え、存分に走ってみました。絶対的な出力が少ないため(燃費指向の1.5リッターダウンサイジングターボ)、三菱自動車ご自慢の前後トルク配分の効果は若干物足りないとはいえ、確かに曲がる。
限られた条件のコースということもあり、100km/h以上の全開コーナリングこそ試す機会はなかったが、ハンドル切った時のターンインに始まり、コーナリング中のパーシャルアクセルでのコーナリング姿勢、アクセル踏んでの立ち上がり加速時等々、キチンと曲がろうとする。
最近マツダの4WDも優れた性能を持つようになったけれど、三菱自動車やスバルのように「滑ってもコントロール出来ればいいでしょ?」というような楽しさは無い。
久し振りに「ワクワクさせてくれる三菱自動車が帰って来るのかな?」という淡い希望など持ってしまいました。
販売面ではどうだろう。「エクリプスクロスは売れるか?」と聞かれたら「いいクルマだと思うけれど数カ月すると苦戦するかもしれませんね」。
現在三菱自動車を愛する人達が買った後、右肩下がりになると思う。ムカシのファンも戻ってこない。理由は簡単。
ブランド力を失ってしまったからだ。どんなに正確かつ高機能の時計を作っても、ブランド持つ時計と同じ価格じゃ売れないのと同じ。
モータースポーツに戻りブランドイメージを作るか、インドネシアで発売し大ヒットしたカッコ良い『エクスパンダー』を200万円以下で売るといったお買い得車路線に切り換えか等々、違う作戦が必要だろう。