徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回はメルセデスベンツ 190E 2.6を取り上げます。
1985年に導入された190は、5ナンバーの扱いやすさとEクラス同等のクオリティの高さで、日本でも大人気となりました。その190に追加された直列6気筒エンジン搭載モデルが190E 2.6です。
オールアルミで製造された新世代のエンジンは、メルセデスファンを「BMWを意識したものか!?」と大いに刺激したものでした。
辛口の評論家として知られた徳さんがひとつとして苦言を呈さなかった、1987年3月26日号の試乗記をリバイバル。
※本稿は1987年3月に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
初出:ベストカー2017年5月26日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です
■“官能的な音”を手にいれた“メルツェデス”
メルツェデス・ベンツ190E 2.6が日本のマーケットに登場した。このクルマは一昨年(1985年)のフランクフルトショウにBMW325iのライバルとして、ダイムラーが用意したクルマである。西ドイツ(当時)もカウンターパンチの応酬は激しいのだ。
190E 2.6のパワーユニットはすでにW124の260Eに与えられているストレート6(直列6気筒)と同じく、ボア×ストロークが82.9×80.2mmで総排気量2597ccのSOHCだ。
日本仕様は圧縮比9.2で最高出力165馬力、最大トルク23.0kgmというものだ。このオールアルミブロックエンジンこそ、この190E 2.6の最大のチャームポイントなのだ。
メルツェデスの新しいストレート6は、ミドレンジのW124シリーズと同時に発売された。新しいストレート6は、オールアルミブロック(現在、メルツェデスのガソリンエンジンは4気筒からV8まで、すべてオールアルミエンジンである。このへんがすごい)で、2.6Lと3Lをラインアップする。
昔からよくいわれたのは、“もし、メルツェデスにBMWのストレート6があったら”ということで、メルツェデスのユニットの信頼性は高いけれど、ややエンジンの回りが重いというのがこれまでの定評だった。
「ついにメルツェデスがBMWのユニットを手に入れた」W124が発表された時に、多くのジャーナリストはこう言った。それほど新しいストレート6は官能的なのだ。
190E 2.6のオーバーオールウェイトは1260kg(190Eは1180kg)、これに最高出力165馬力(同115馬力)、最大トルク23.0kgm(同16.8kgm)だから、実に軽々と加速する。
ダイムラー製の4スピードトランスミッションは、Dレンジでは静かにアクセルを踏むとセカンド発進、強く踏んでやるとローギアに落ちるタイプ。これを嫌うなら2ポジションからスタートすれば、ローギア発進となる。
その加速はといえばすばらしくフィールも文句ない。BMWのライト6もダイムラー製のストレート6もただ回るだけじゃない。この回り方に個性があるのだ。
メルツェデスのストレート6は、低速から高速まで実にスムーズなことはむろんで、トルクの追従、あるいはパワーの上昇が人間の感覚と一致している。
つまり、ドライバーがスロットルを踏む、それに応じてエンジンの回転が上がり、スムーズな加速につながる。この一連の動作に存在感がある。これがクルマを運転している、加速している、というドライバーの実感につながり、実に気持ちいいのだ。
単によく回るエンジンは国産車にもある。しかし、こういう存在感のあるエンジンは残念ながらめったにない。
そして、メルツェデスの2.6L、ストレート6も、高回転になるとBMWに近い金属音を発生する。その音がまた心地いい。メルツェデスといい、BMWもポルシェもヨーロッパの一流と呼ばれるクルマのエンジンはみなこの“いい音”“官能的な音”がするのだが、この理由はなんだろう。
澄み切った淀みのない、かなり高周波な金属音、これはドライバーの気持ちを高揚させるに大いに役立つ。こいつが聞こえると、私もやる気になってしまうのだ。
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