将来の電動化市場に向けて実証実験を行うため、ヤマハが電動バイクのE01を発表。5月から個人リースも実施する。その詳細と、プレス向けの試乗会で体感してきた新時代の乗り味をレポートしよう。
文/沼尾宏明、写真/ヤマハ発動機、南孝幸
【画像ギャラリー】EVなのにシート下にはフルフェイスヘルメットが収納可能の実用性(8枚)画像ギャラリーガソリン125ccのNMAXよりパワフルで圧倒的に静か
無音の停止状態からスロットルを捻ると、スーッと静かに加速。過激ではないものの、相当力強い。その後も右手の動きにダイレクトに反応し、フィーンというモーター音ともに振動もなく車体を前に押し進める。
――ヤマハの電動バイク「E01」に試乗して驚いた。エンジン125ccのNMAXより静かで明らかにパワフルなのだ。価格や充電環境などを度外視して、走りだけを考えればガソリン車が時代遅れに感じるほど新鮮だった。
E01は、将来の二輪電動化に向けて、様々な課題を浮き彫りにするために開発された実証試験用の完全電動(BEV)バイク。現状のエンジン車と比較し、利便性や価格、充電方式など“生の声”を得るべく、世界6地域で実証実験を行う。
実証実験は日本のほか、欧州、台湾、タイ、マレーシア、インドネシアで実施。重要な検証要素である気温差をはじめ、交換用バッテリーが普及している台湾、125ccで高速道路を走れる欧州とマレーシアなど環境の違いも考慮した。
最高速100km/h、航続距離104kmを実現
開発コンセプトは「Plugged Yamaha to new era」(ヤマハ発動機が新時代を切り開く)。
ヤマハは1991年以来、電動バイクに取り組み、国内の現行モデルにはE-ビーノ(50cc相当)がある。E-ビーノの航続距離はバッテリー一個使用の場合、カタログ値で約29km。坂道などがあると10km台になる。
今回のE01は原付二種(51~125cc相当)で、約104kmの航続距離(60km/h定地性能)と最高速100km/hのパワーを兼ね備えた実用的なモデルだ。
搭載される空冷モーターは、子会社のヤマハモーターエレクトロニクス(YEJP)に製造を委託し、自社で設定。独自の「平角太巻き線技術」を採用し、最高レベルの高効率化を実現した。
そしてリチウムイオンバッテリーは大容量4.9kWhを確保。セルは購入品ながらパッキングは内製だ。ケースはCFアルミダイキャスト製とし、軽量コンパクトな設計としている。
航続距離を伸ばすためバッテリー重量は30kgとなり、固定式に
ヤマハは中長期成長戦略で、2輪の完全電動車(BEV)の割合を2035年までに20%にする目標を掲げている。これを達成するには、E-ビーノのように都市内移動の短距離を想定したコミューターだけでは足りず、ガソリンエンジン車のみとなっている都市圏を移動可能な中距離セグメントにもEVを投入していく計画だ。
航続距離を伸ばすには大きく重いバッテリーを積む必要がある。E01のバッテリー重量は30kgとのこと。ヤマハによると「人が片手で持てる電池重量が約10kgが限界」であるため、着脱式バッテリーのE-ビーノに対し、E01のバッテリーは固定式とした。
当初は高速道路を走行できる126cc相当も検討したが、通勤ユーザーは1日30~40kmの走行がメイン。5~6時間で充電でき、ユーザーも多いことからまずは125cc相当を選択した。
なおE01自体は販売予定がなく、実証実験の結果を反映したモデルが世に送り出されることになる。
電動バイクに関しては他メーカーと協調路線を歩みと思いきや、EVには「協調領域」と「競争領域」があると担当者は話す。国内4メーカーによる電動バイク共通バッテリーのシェアリングサービスを提供する「ガチャコ」などの取り組みは前者、今後の利便性を探るE01のようなヤマハ独自の取り組みは後者にあたる。ヤマハが協調から外れ、独自路線を歩むわけではないのだ。