新型スープラ プロトタイプ初試乗 伝説の後継車、雨の袖ヶ浦で激走

■強く感じた電子制御の不自然な介入

 今回は残念ながらウェットの試乗ですべての実力を測ることは難しかったのですが、このクルマの課題も見つけることができました。

 もちろんプロトタイプの段階ですので、このまま市販車になるとも限りませんが、僕が気になったことはピーキーな姿勢変化と電子制御。

 簡潔に言うと自分が想定したラインをトレースしたり、荷重移動をしようとする前に電子制御が入ってしまい挙動がピーキーになります。

これだけのウェット路面では電子制御はドライバーを支えてくれる大事なデバイス。でも今回のプロトタイプではその制御の唐突さが逆に怖さを抱かせたという

 僕はスポーツカーに限らず電子制御の導入は大歓迎です。誰でも楽しく、そして安全にクルマを走らせるには有効なシステムだと思います。

 ですが今回のプロトタイプの電子制御はもっともっと熟成が必要です。克服すべきは制御の違和感です。

 端的に言えば曲がらないクルマを無理やりに曲げている感覚が強くありました。イン側のタイヤにブレーキをかけてクルマを曲げるのですが、曲がり過ぎてオーバーステアになるとアウト側のタイヤにブレーキをかけて姿勢を戻そうと制御します。

 一気にスピンなどをしないように制御をしているのですが、現状ではスムーズなドライビングをするのが難しい。

 このような電子デバイスでの制御自体はよくあるものですが、あまりにも電子制御に依存しているように感じます。

 ドライバーの意に反した制御が入ってきて、結果として「自分の思い描くラインはこうじゃないのに」と思うシーンが多くありました。

 制御の方向性は決して悪いものではないのですが、もっと自然に、違和感なく介入してほしいです。

 せっかくのクローズドコースでの試乗なので、電子制御「全オフ」でのクルマが持つ本来の挙動を見ていきます。

 結論から言えば、全オフ状態は自然なフィーリングに近いものの終始アンダーステア。そしてピーキーな性格が続きました。

電子制御をカットしてみてもどことなくピーキーな挙動を見せたプロトタイプ。新型スープラのボディのディメンションはピーキーになりやすい傾向だという

 クルマの構成要素を見てもショートホイールベース(2470mm)に、フロント255/40/18、リア275/40/18という太いタイヤ、そして低い重心高。

 この組み合わせはピーキーな特性になる要素が揃っているとも言えます。

 そのような車体をスープラはグイグイっと電子制御で曲げていく。どうも最初から電子制御ありきのセッティングで煮詰めているようです。

 ちょっと粗さの残る制御のいっぽうで、0-100%でロック率を可変することができるアクティブデフはとても好感触。走っていても「これはいい!」と思う瞬間が多くありました。

 プログラムの味付け次第でスライドを許容するのか、とにかくロック率を高めてトラクションをかける方向性になるか。この辺の仕上がりは楽しみです。

 10分×2回の試乗を通して感じたことは、もう少しドライバーと対話できるようなクルマになる進化の余地があるということ。

 素材はいいのであとは味付けをしっかりとしていけばいいのではないでしょうか。

■課題はまだあるけれど、これがスープラのスタート地点

 ちょっと辛口になってしまいましたが、電子制御は想像以上に本当に難しい分野です。理想の電子制御は「クルマが本来持つ特性を電子制御で武装する」、そんなイメージです。

 スープラのようなピーキーなスポーツカーならクルマをもっと曲げ、乱れた姿勢を安全に立て直す。そしてそれを違和感なく行う制御が必要になります。

 そのような電子制御の成功例を挙げるなら最新のポルシェです。非常に巧みに違和感なく電子制御を使いこなしています。

 「スポーツプラス」にドライブモードを設定するだけで、アマチュアが乗ってもプロドライバーが乗っても、自然なフィーリングで一番速く走れます。

まだ新型スープラはプロトタイプの段階。トヨタとBMWの共作となるが、これからのクルマ作りにも大いに期待したくなる試乗となった

 ただこの技術はポルシェも一朝一夕で完成させたものではありません。多くのドライバーに違和感を与えない電子制御には時間も、人材も必要です。

 スープラはBMWという強い味方を携えて、ヨーロッパスタンダードのクルマ作りが始まったばかり。

 エンジン、ハンドリングなど現段階でも非常に評価の高い要素はあります。それらを生かしたまま、クルマ全体を煮詰めていければより安全に、そしてもっと楽しく走れるクルマになるのは間違いありません。

 まだスペックや価格など詳細は非公開なので、2019年1月の新型スープラの正式発表を待ちつつ、今度は市販車になったスープラにもう一度試乗してみたいと思います。

【荒聖治選手プロフィール】

 荒聖治(あら・せいじ)。1974年千葉県生まれの現役レーシングドライバー。

 2000年に全日本GT選手権(現SUPER GT)GT500に参戦開始、2001年フォーミュラ・ニッポン参戦などトップカテゴリーで戦ってきた名ドライバー。

GT500などトップカテゴリーにも参戦した荒聖治選手(右)。写真は2008年にKONDOレーシングにてSUPER GTセパンラウンドを制した際の様子

 2004年には日本人2人目となるル・マン24時間レース総合優勝を果たすなど、その功績は偉大だ。

 レーシングカーばかりではなく、ロードカーも好きな無類のクルマ好きとしても有名。タイヤ、エンジンなどメカニズムにも詳しく、論理的なドライビングには定評がある。インプレッション記事では今回がベストカー初登場。

【ベストカー本誌予想 新型スープラ予想スペック】

ボディサイズ:全長4380×全幅1860×全高1295mm
エンジン:直列6気筒 3L ターボ 350ps/50.0kgm以上
トランスミッション:8AT
価格:700万円前後

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