新型スープラのプロトタイプ試乗会が千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイで行われた。新型は「直6+FR」というスープラの方程式を踏襲し、グローバルでは5代目となるスープラだ。
2002年に製造が終了した「A80」の後継として2019年にデビューをする新型スープラ。エンジンなどはBMWから供給を受け、トヨタとBMWの合作となる。
そこで今回は2004年のル・マン総合優勝ドライバー、そしてSUPER GT GT500でスープラを駆り、GT300ではBMWに乗り活躍した現役レーシングドライバー、荒聖治選手に試乗を依頼した。
プライベートではA80スープラを3台乗り継いだという荒選手。新型はどう映ったのか?
文:荒聖治(まとめ:ベストカーWeb編集部)/写真:奥隅圭之
■「トヨタらしさ」と「BMWらしさ」のバランスは?
皆さんこんにちは。荒聖治です。今回はベストカーWebで新型スープラ プロトタイプの試乗をできるということで、ひとりのクルマ好きとしてもワクワクしています。
僕はかつて80スープラを3台乗りました。NAのSZ(AT)から始まり、次がターボのRZ(AT)、最終的にはMTのRZ。
レーシングドライバーがATを選んだことは意外に思うかもしれませんが、80スープラは快適に高速道路をクルージングのように走る場面でも非常に優れていたんです。
今回の新型も2ペダルで「大人の優雅なスポーツ」の雰囲気だし、ゆったり走りを楽しめる存在として楽しみにしています。

プライベートでもスープラに限らずいろいろなクルマに乗ってきましたが、個人的なクルマの好みは「小さくて、軽量で、大パワー」なんです。具体例を挙げればBMW135iみたいな。
今回のスープラも現代の基準からすれば充分にコンパクト(編集部註:トヨタ86よりもホイールベースは100mm短い)。しかもエンジンはBMWの直6が搭載されるとあって、乗る前から気になる存在。
今回の試乗では「トヨタらしさ」と「BMWらしさ」のバランスという点を主軸にして、インプレッションをしていきます。
【今回の試乗会で判明した新型スープラのスペック】
・ホイールベース2470mm
・86より重心高が低い
・ボディ剛性はLFA以上、86の約2.5倍
・前後重量配分50:50
・最大トルク発生回転数1600rpm~
・今回のプロトタイプにはアダプティブバリアブルサスペンションを装着
・アクティブディファレンシャル(2WAY LSD 可変ロック率0-100%)
■エンジンよし、ステアリングフィールよし
さっそく乗ってみます。運転席に座っても今回は内装に目隠しがされていて、計器類以外はほとんど見えません。
BMWそのもののシフトノブを「D」に入れてコースイン。朝イチの天候は生憎の雨。路面はフルウェットです。
乗りだしてすぐにエンジンのよさを感じます。スペックは非公開でしたがパワーもありトルクフル。加速もどこからでもスムーズに吹けます。エンジンは抜群にいい!!

ステアフィーリングもトヨタらしからぬ感じ。今まで乗ったトヨタ車の印象は自分の手でステアリングをセンターに戻す必要がありました。
しかしこのスープラに関してはBMWなど多くのヨーロッパ車と同じように、ステアリングを握る力を弱めるだけでステアリングセンターに戻ろうとします。
ずばりこのステアリングフィールはBMWだな、と感じる部分です。今までのトヨタだとこのフィーリングを作り出すのは難しかったでしょうし、今回のトヨタとBMWのコラボを印象付けるものでした。
次はきっと多くの人が気になっているであろうトランスミッション。ATの制御は文句なしです。DCTのように発進や停止時のギクシャクする様子もなく、コンフォートにも乗れますし、今回のようなサーキットでもダイレクト感に優れていました。
ATは街中でも気を使わないで済むし、スープラのトランスミッションとしてはポジティブに捉えていいのではないでしょうか。
ブレーキはスタビリティが高くて直線のフルブレーキなどの制動力も不安がなく、そのスタビリティは高いです。
■強く感じた電子制御の不自然な介入
今回は残念ながらウェットの試乗ですべての実力を測ることは難しかったのですが、このクルマの課題も見つけることができました。
もちろんプロトタイプの段階ですので、このまま市販車になるとも限りませんが、僕が気になったことはピーキーな姿勢変化と電子制御。
簡潔に言うと自分が想定したラインをトレースしたり、荷重移動をしようとする前に電子制御が入ってしまい挙動がピーキーになります。

僕はスポーツカーに限らず電子制御の導入は大歓迎です。誰でも楽しく、そして安全にクルマを走らせるには有効なシステムだと思います。
ですが今回のプロトタイプの電子制御はもっともっと熟成が必要です。克服すべきは制御の違和感です。
端的に言えば曲がらないクルマを無理やりに曲げている感覚が強くありました。イン側のタイヤにブレーキをかけてクルマを曲げるのですが、曲がり過ぎてオーバーステアになるとアウト側のタイヤにブレーキをかけて姿勢を戻そうと制御します。
一気にスピンなどをしないように制御をしているのですが、現状ではスムーズなドライビングをするのが難しい。
このような電子デバイスでの制御自体はよくあるものですが、あまりにも電子制御に依存しているように感じます。
ドライバーの意に反した制御が入ってきて、結果として「自分の思い描くラインはこうじゃないのに」と思うシーンが多くありました。
制御の方向性は決して悪いものではないのですが、もっと自然に、違和感なく介入してほしいです。
せっかくのクローズドコースでの試乗なので、電子制御「全オフ」でのクルマが持つ本来の挙動を見ていきます。
結論から言えば、全オフ状態は自然なフィーリングに近いものの終始アンダーステア。そしてピーキーな性格が続きました。

クルマの構成要素を見てもショートホイールベース(2470mm)に、フロント255/40/18、リア275/40/18という太いタイヤ、そして低い重心高。
この組み合わせはピーキーな特性になる要素が揃っているとも言えます。
そのような車体をスープラはグイグイっと電子制御で曲げていく。どうも最初から電子制御ありきのセッティングで煮詰めているようです。
ちょっと粗さの残る制御のいっぽうで、0-100%でロック率を可変することができるアクティブデフはとても好感触。走っていても「これはいい!」と思う瞬間が多くありました。
プログラムの味付け次第でスライドを許容するのか、とにかくロック率を高めてトラクションをかける方向性になるか。この辺の仕上がりは楽しみです。
10分×2回の試乗を通して感じたことは、もう少しドライバーと対話できるようなクルマになる進化の余地があるということ。
素材はいいのであとは味付けをしっかりとしていけばいいのではないでしょうか。
■課題はまだあるけれど、これがスープラのスタート地点
ちょっと辛口になってしまいましたが、電子制御は想像以上に本当に難しい分野です。理想の電子制御は「クルマが本来持つ特性を電子制御で武装する」、そんなイメージです。
スープラのようなピーキーなスポーツカーならクルマをもっと曲げ、乱れた姿勢を安全に立て直す。そしてそれを違和感なく行う制御が必要になります。
そのような電子制御の成功例を挙げるなら最新のポルシェです。非常に巧みに違和感なく電子制御を使いこなしています。
「スポーツプラス」にドライブモードを設定するだけで、アマチュアが乗ってもプロドライバーが乗っても、自然なフィーリングで一番速く走れます。

ただこの技術はポルシェも一朝一夕で完成させたものではありません。多くのドライバーに違和感を与えない電子制御には時間も、人材も必要です。
スープラはBMWという強い味方を携えて、ヨーロッパスタンダードのクルマ作りが始まったばかり。
エンジン、ハンドリングなど現段階でも非常に評価の高い要素はあります。それらを生かしたまま、クルマ全体を煮詰めていければより安全に、そしてもっと楽しく走れるクルマになるのは間違いありません。
まだスペックや価格など詳細は非公開なので、2019年1月の新型スープラの正式発表を待ちつつ、今度は市販車になったスープラにもう一度試乗してみたいと思います。
【荒聖治選手プロフィール】
荒聖治(あら・せいじ)。1974年千葉県生まれの現役レーシングドライバー。
2000年に全日本GT選手権(現SUPER GT)GT500に参戦開始、2001年フォーミュラ・ニッポン参戦などトップカテゴリーで戦ってきた名ドライバー。

2004年には日本人2人目となるル・マン24時間レース総合優勝を果たすなど、その功績は偉大だ。
レーシングカーばかりではなく、ロードカーも好きな無類のクルマ好きとしても有名。タイヤ、エンジンなどメカニズムにも詳しく、論理的なドライビングには定評がある。インプレッション記事では今回がベストカー初登場。
【ベストカー本誌予想 新型スープラ予想スペック】
ボディサイズ:全長4380×全幅1860×全高1295mm
エンジン:直列6気筒 3L ターボ 350ps/50.0kgm以上
トランスミッション:8AT
価格:700万円前後