5月末の発表から約1か月。いま、クルマ好きの注目を最も集めているニューモデルは、「マツダ3」ではなかろうか。
しかし、メディア向け公道試乗会はいつ開催されるかもわからない。このままじゃいつまでたっても乗れない! そこでディーラー試乗に行ってみることにした。
文:清水草一 写真:清水草一、ベストカー編集部
■「都合のいい時間にいらしてください」
まずは電話だ。
「そちらにマツダ3の試乗車はありますか?」
「現在当店にある試乗車は、5ドアスポーツハッチバックの1.8ディーゼルなのですが、それでよろしいでしょうか」
「それですそれです! それに乗りたいんです!」
ひょっとして試乗の予約がびっしりじゃないかと思ったが、日曜日だというのに
「特に予約はございませんので、ご都合のいい時間にいらしてください」
だって。やや拍子抜け。それでも待望のマツダ3だ。胸が高鳴る。
マツダのブランド力を上げるべく、レクサスみたいに黒く改装された近所のマツダディーラーへ。まずはショールーム内の展示車(5ドア)と対面した。

■同クラスの国産車とは格が違う
シンプルでカタマリ感満点のボディに、シブいブルー(ポリメタルグレーメタリック)がよく似合っていて、プレミアムな香りがする。
国産車としてはタイヤとホイールハウスの隙間が異例なほど狭く、すべてが引き締まった印象だ。第一印象からして同クラスの国産車とは格が違う。国産でガチンコなのはカローラスポーツだが、あのゴチャゴチャしたキーンルックとはデザインレベルが違う。さらには、VWゴルフよりもデザインのプレミアム感はずっと上だ。
いっぽうインテリアは、ほぼ黒一色で色気や質感が若干足りないが、そこは見た目のカッコ良さでよしとしよう。

営業マン氏の洗脳活動ともいうべき営業トークの後、ようやく試乗だ。試乗車も展示車と同じシブいブルー。実にカッコイイ。
ディーラー試乗だから、コースは当然そこらへんの一般道。しかしそこらへんの一般道だからこそ、日常的な走行感覚はつかみやすいはず。
走り始めると、ステアリングからしっとりしたフィーリングが伝わってきた。それほどシャープすぎず、かといってダルではなく、人間の感覚に素直な操作感を目指しているマツダらしい味わいだ。
アクセルもブレーキも同様。ちょっと踏んだだけでガバッと聞くオーバーサーボが近年の主流で、ドイツ車をも含めそれが普通になってしまったが、そんな中、マツダ3の操作系の節度感は、これぞ良識! と言うしかない。ゴー・ストップの多いそこらの一般道だからこそ、余計に運転のしやすさを実感する。
■猛烈に「オトナなクルマ」
一般道なので制限速度は60km/hが上限だが、50km/hを超えたあたりから、乗り味が変わった。なんとも言えないしっとりした感覚が大幅に増して、気持ちよくなったのだ!
この感覚は何だろう。あえて言えば、ハイドロシトロエンの高速巡行時にちょっと近いが、自分が母の羊水の中に軽く浮かんでいるみたいな、言葉では表現の難しい気持ちよさだった。
これで高速を巡行したらどんな感覚になるのか? ひょっとしてものすごく気持ちいいんじゃないか。やってみなきゃわからないが、期待がふくらんだ。
ハンドリングも実にしっとりしている。マツダ3にはGベクタリングコントロールが搭載されているが、過度に曲がりすぎる感覚はなく、切ったぶんだけじわっとしっかり曲がる。登場当初のGベクタリングコントロールは、「曲がりすぎる」という声もあったが、そのあたり、マツダ3は緻密にチューニングしてきた気配が濃厚だ。

とにかく、マツダ3のシャーシ性能の高さは、間違いなく抜群と見た。たとえばカローラスポーツもいいクルマではあるが、マツダ3に比べるとはるかに”いいクルマ感”が表面的で奥深さがない。子供対オトナとでも申しましょうか。マツダ3は猛烈にオトナのクルマなのである。
■シャシーのすばらしさにパワーが足りてない
つまり、マツダ3のライバルはドイツ勢ということになるだろう。シャーシ性能に関しては、現行ゴルフを上回り、世界のトップなのではないか?
ただ、パワートレインは弱い。試乗した1.8スカイアクティブDは、排ガス対策のために排気量を1.5から1.8に上げただけで、パワーやトルクはほとんど向上していない。よって加速感は「必要十分」の域を出ておらず、かなり物足りない。1.5ガソリンはもちろんのこと、2.0ガソリンも、たぶん大したことはなかろう。かつてのメルセデスのように「シャーシがエンジンに勝つ」を味わうには適しているが……。
秋に登場するスカイアクティブXも、プロトタイプに試乗した限り、そんなにたいしたフィーリングではなかった。
これだけのシャーシ性能がありながら、現在のマツダで一番パワフルに感じるのは2.2ディーゼルというのが実情。それを積めば不満は解消されるだろうが、お値段が心配だ。試乗した1.8ディーゼルのツーリングセレクションでも、FFで286万円ほど。最低限のオプションを装備して、乗り出し336万円という見積もりだった(値引きゼロ)。2.2ディーゼルが出たとしたら、乗り出し380万円近くなるだろう。
それでもこのシャーシには、ゴルフGTIやRみたいな、何か強烈なパワートレインを載せてみたいという勝手な願望がもたげる。かつての「マツダスピードアクセラ」の2.3Lターボ(264馬力)のような! アレはトルクステアビンビンのじゃじゃ馬だったが、マツダ3のシャーシなら、あれくらいのパワーでちょうどいいんじゃないか?

■いいクルマすぎてつまらない、という無茶な願い
この、あまりにも良識的なマツダ3もステキではあるが、これだけの素材を、なんとかもっと生かせないものか。
まあ、順当なのは2.2ディーゼルの投入だろう。おそらくスカイアクティブXでは役不足だ。
近年のマツダは、確かに非常にいいクルマを作っているが、いまや、いいクルマすぎてつまらないと感じるようになった。
マツダは、こんなクルマ好きのワガママに応えてくれるだろうか? やっぱムリでしょうか……。
ちなみに、いま注文して、納車は消費税アップ前ギリギリ(9月下旬)とのことでした。
(編集部注:消費税は「納車時の税率」なので、2019年9月30日までに納車されれば税率8%、同年10月1日以降の納車だと税率10%となる。300万円の車両だと約6万円差)

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