■CO2排出量はLCAで考える必要がある
また、最近よく耳にするライフサイクルアセスメント(LCA)という概念も、真面目にCO2削減を考えるうえで重要だ。
これは、ユーザーがクルマを所有している間だけではなく、そのライフサイクル全体のCO2排出量を計算しようという考え方。製鉄所で鉄が作られる段階から、工場で組み立てられて出荷され、最後に廃車がスクラップになってリサイクルされるまで、クルマの一生を通したCO2排出量がカウントされる。
例えていうなら、EVは製造時に背負ったCO2の負債を、走行時CO2排出量ゼロを利用して返済するイメージ。CO2フリーの原発や再エネ電源で充電すれば借金返済が捗るが、火力発電の割合が多い国ではなかなか借金が完済できない。
いっぽう、エンジン車は走れば走るほどCO2を排出するから、走行距離が伸びるとどこかでLCAでカウントしたCO2排出量がEVを上回る。だから、ライフトータルの走行距離を減らし、燃費を向上させるといった緊縮財政が求められる。
このLCAでCO2排出量を計算してみると、いろいろ興味深い事実が見えてくる。
EVもPHEVも純エンジン車も、シャシー、ボディ、内装などは基本的に同じ。つまり、その部分のLCAを計算しても違いは出ない。
いちばん重要なポイントは、EVはバッテリー製造時のCO2排出量が思いの外に大きく、内燃機関で走るクルマは走行時のCO2排出量が多いという基本的な傾向だ。
EVはたしかに走行中のCO2排出はゼロだが、だからといって大量のバッテリーを積むと製造時のCO2排出量がかさむ。500kmレベルの航続距離を望むなら、内燃機関を併用してトータルCO2排出量を減らすPHEVのほうが、実用性もあわせてむしろ効率がいいという見方もあるのだ。
三菱はLCAをベースに電動化戦略を考えているから、シティユースを中心とした小型車はバッテリーEV、航続距離やユーティリティを要求される中大型車はPHEVをラインナップする戦略をとる。
理念先行でバッテリーEVに傾斜する欧州勢とは対照的に、より現実的なソリューションを目指しているといえるわけだ。
■LCAで考えたエクリプスクロスPHEVのメリット
今回試乗したエクリプスクロスPHEVを例にとって、そのメリットを列記してみよう。
(1)57.3km(WLTCモード)と実用充分なEV航続距離がある。将来日本でも再エネ電力が増えてくれば充電時のCO2排出量が減るし、ユーザーの平均走行距離が少ない日本ではその大半をEV走行でまかなうことも可能。EVモードで走っている限り、LCAで計算するCO2排出量は純EVと変わらない。
(2)搭載するリチウムイオン電池は13.8kWhで、これは平均的なEVの4分の1程度の容量。製造時に大量のCO2を排出する電池搭載量をなるべく減らしたいというLCAのニーズにマッチしている。
(3)ロングドライブ時の航続距離はガソリンエンジンによって確保されているので実用上の不便/不安がない。また、熱効率の高いエンジンとハイブリッド技術によって、WLTCモード16.4km/Lの燃費を達成している。
欧州環境機関発行のLCA検討基準をベースに、EU、日本、タイ、インドネシアの各国でCセグSUVのLCAを試算した結果が興味深い。
CO2フリー電源に力を入れるEU圏では2030年あたりからEVの優位性がハッキリしてくるが、日本とタイでは2040年でもPHEVが優勢。インドネシアではなんと2035年時点でもエンジン車のほうがトータルではCO2排出量が少なく、2040年になってようやくPHEVがベストソリューションになるという計算結果が出ている。
この試算が絶対的なものと言うつもりはないが、LCAで見たCO2排出量が地域によって大きく異なるのはまぎれもない事実。
大手メディアのニュースソースは欧米主体だから、「これからはEVの時代」という報道ばかりが目につくが、世界はそんなに単純な原理で動いていないという点はしっかり認識しておくべきだと思う。
いかがだろう。もちろん、EVにはEVならではのメリットがあるだろうし、年間5000kmも走らないようなライトユーザーなら、車重が軽く(車体部分の製造時CO2排出量が少ない)コストの安い軽で充分という考え方もある。
しかし、同じセグメントの似たような車種で、EV、PHEV、HV、ICE(内燃機関)のLCAトータルCO2排出量を比べると、PHEVはなかなかバランスよく高得点を稼いでいるのが知られざる事実なのだ。
いずれにせよ、クルマの電動化はどうやって電気を作るかという問題とセットで考える必要があり、国家単位でエネルギー政策を考えないとEVはそのポテンシャルを効果的に活用できない。CO2問題は、内燃機関をEVに置き換えればいいという単純な二元論に矮小化してはいけないと思う。
さらに言えば、日本は2011年の東日本大震災で一時すべての原発が停止するなど、エネルギー問題でさまざまな試練を経ている。こうした災害時の経験をもとに、非常用電源として電動車を活用する試みが自治体や公共機関のネットワークを通じて広がっているが、ここでもPHEVの特性を活かした利用法が注目されている。
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