■若いエンジニアはランエボがWRCを席巻した時代を知らない
BC:そのお答えは、増岡さん的には「模範解答」だと思うんですが、でも安全安心だけが三菱4WDの魅力じゃないですよね?
増岡:まぁ、たしかにウチの制御は単に安全なだけじゃなくマニアックですね。たとえば、アウトランダーPHEVには、ターマック、グラベル、スノー、マッドの4つの4WDモードがあります。
BC:普通のユーザーはマッド(泥濘地)なんか滅多に行かないけど(笑)。
増岡:でも、開発者から「雪とか泥でスタックしたら増岡さんどうするの?」って聞かれるわけ。で、そりゃ最初バーンと一回空転させて、遠心力でタイヤに詰まった雪や土を飛ばして、それから本来のグリップを活かせば4WDなんだからラクに脱出できるんだよって話をする。技術者も凝り性だから、じゃやりましょうってことで、アウトランダーPHEVのマッドモードにこういう制御が実装されているわけです。
BC:マジすか? こんど雪道で試乗したらやってみよう!
増岡:将来、クルマが電動化する時代は必ず来る。そうなると、エンジンの開発がなくなるぶん、駆動力配分、サスペンション設定、ハンドリングなど、走りのテイストが最大の差別化要因となる。エンジンでもPHEVでもBEVでも、三菱はつねに4輪トルクを最適制御する思想が貫かれていて、これがウチの独自の魅力となると思っています。
BC:話は尽きないんですが、そろそろ最後の締めとして2023年の抱負などがあったら。
増岡:デビュー戦で優勝しちゃったことでハードルは上がったけれど、2023年の参戦はもちろん、その先のことも考えています。モータースポーツ活動の良いところは、直接参加するスタッフだけじゃなくエンジニアをはじめとする関係者みんなのモチベーションが高まること。ここ10年くらいに入社した若いエンジニアはWRCをランエボが席巻した時代を知らないわけですが、彼らにとってもトライトンのAXCR優勝はすごくに刺激になっているし、ラリーアートが象徴する三菱のモータースポーツの伝統を次世代に引き継ぐという意義も感じてます。
BC:(じゃオフレコでけっこうですから)2023年の予想を。
増岡:まだ参戦すら正式決定していないんです。ただ夢は言葉にしないと実現しないから言っちゃうけど、出るならば表彰台を独占したいなと!
BC:どひゃー! それじゃ2023年はベストカーも取材チームを組んで現地入りしなきゃ。ぜひ夢をかなえてください!
【増岡 浩(ますおかひろし)】
三菱自動車工業株式会社 理事 総務・コミュニケーション・サスティナビリティ本部 広報部チーフエキスパート 第一車両技術開発本部 システム実験部 担当部長 ラリーアートビジネス推進室 担当部長。1960年生まれ。79年からオフロードレースに出場し、87年からダカール・ラリーに参戦、2002年と03年には三菱パジェロで日本人初の総合2連覇を達成した。現在は開発中の車両評価やテストドライバーの育成、ラリーアートの事業開拓など、多忙な日々を送っている。
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