Brembo(ブレンボ)と聞いて、クルマ好きだったらその名を知らない人はいないだろう。F1やMotoGPといった世界最高レベルのモータースポーツはもちろんのこと、フェラーリやポルシェなどの世界のスポーツカーが装着するブレーキとして知られている。
Bremboはハイパフォーマンスカーのストッピングパワーを支える高性能ブレーキの代名詞と言っても過言ではない。
そのため「Bremboというのはハイエンドのブレーキシステムで自分には縁がない」と思っている人も多いと思うが、これは必ずしも「Yes」とばかりは言い切れない。実はあなたの愛車のブレーキもBremboかもしれないのだ。そのあたりを、Bremboの歴史を紐解きながら、解説していきたい。
文/鈴木直也、写真/ブレンボ・ジャパン、ベストカー編集部
偶然の出会いがブレンボの歴史を大きく変えた
イタリア北部を代表する街ミラノ。人口約130万人のこの都市は、歴史的建造物やファッションが人気の観光地であるとともに、自動車産業の中心地としての側面を持っている。
たとえば、アルファロメオはずばりミラノが発祥の地だし、西へ150kmほどのトリノにはフィアット、ランチア、反対に東に250kmのモデナ周辺にはフェラーリとランボルギーニ……。おなじみの自動車ブランドがひしめいている。
自動車産業が栄えればそこには各種のサプライヤーも生まれる。ミラノから東へ50kmほど離れたベルガモ近郊で生まれたのが、ブレーキメーカーとして名高いブレンボ。創業は1961年のことだったという。
ディスクローターの製造からスタートしたブレンボを最初に評価したのは、1964年“ご近所”ミラノのアルファロメオだった。
社史によると、アルファロメオとブレンボの出会いはまったくの偶然だったという。英国のサプライヤーからブレーキディスクを運んできたトラックがベルガモ近くで事故を起こし、積み荷のブレーキディスクが散乱。回収されたブレーキディスクの検品が、まだ家族経営だったブレンボに持ち込まれることとなる。そこで「この部品ならウチでも造れます」という流れとなり、まずはアフターマーケット用のディスク生産を開始する。それがその後のアルファロメオへのブレーキディスク納入へとつながったのだそうだ。
今も昔もそうだけれど、ブレーキシステムに求められる最重要課題は信頼性だから、生まれたばかりの小さなブレンボが名門アルファロメオへの納入を勝ち取ったのは異例のこと。ブレンボの提供する製品の性能と品質が、創業当時から極めて優れていたことがうかがえる。
ただし、信頼性を最重要課題とするだけに、ブレーキにはある意味“枯れた技術”が求められる。また、有力な大手サプライヤーがひしめく業界でもあり、ブレーキシステム全体をブレンボが担当するのはまだしばし時間を要する。飽くなき技術革新に燃えるブレンボ技術陣は、2輪業界に新たなチャレンジの舞台を求めることとなる。
二輪車ブレーキシステムに革新をもたらしたブレンボの提案とデザインセンス
ブレンボが初めてブレーキシステムをトータルで開発することになるのは、1972年モトグッツィのオートバイからだ(モトグッツィはベルガモから北へ50kmほどのコモ湖畔にあり、こちらも“ご近所”)。
ここでブレンボが提供したのは、それまでの2輪業界の常識を覆す革新的なブレーキシステムだった。すなわち、単にブレーキキャリパーやローターを設計・製造するだけではなく、前後ブレーキの油圧ラインを連結してフットブレーキによって前後にバランスよく制動力を分配する“インテグラルブレーキシステム”を開発。ブレーキの作動原理そのものを進化させたのである。
そこに、上手い下手を問わず誰でも最適なブレーキングができるブレーキシステムを提案したブレンボの提案は、70年代という時代を考えると極めて先進的。ベストなブレーキを目指して飽くなき挑戦を続けるブレンボのDNAは、こんな初期の頃から製品にはっきり表れていたというわけだ。
エンツォ・フェラーリの要望を上回るブレーキを開発しF1を席巻
こうして、自動車業界にその名を知られるようになったブレンボだが、そうなると放っておかないのがフェラーリなどのプレゼンのおかげで、イタリアでも非常にメジャーな存在になったモータースポーツ業界だ。量産車とは対照的に、モータースポーツは“枯れた技術”ではなく“革新性”こそが求められる。ブレンボに用意された次のステージが、フェラーリF1へ鋳鉄ディスクローターの供給だった。
このステップを難なくこなしたブレンボを評価したエンツォ・フェラーリは、80年代初頭からブレーキシステム全体をブレンボに任せることを決断。そのオファーに対して、ブレンボは「モノブロック・6ピストン・ラジアルマウント」という革新的なアイディアで答える。
82年にデビューしたこのF1用ブレーキシステムは、最初の1年間フェラーリによって独占使用されたのち、その後数年ですべてのF1チームに波及し、自他共に認めるF1マシンのスタンダードとしての地位を獲得する。
また、84年にはピストンを4つに減らした以外の基本構造はそのままに、ポルシェが928用のブレーキステムとしてこれを採用。レース用、あるいは高性能車用のブレーキシステムとして、ブレンボの評価を不動のものとしたのだった。
ブレンボは高性能ブレーキの代名詞だが、さらにこの先目指すものは!?
こうしてモータースポーツファンやスポーツカー好きにはおなじみのブランドとして認知されるようになったブレンボ。日本のクルマ好きに広く認知されるようになったのは、1993年にR32GT-R Vスペックにブレンボが標準装備されてからだろう。以後、R33GT-Rではブレンボが全車標準となるなど知名度は急上昇。インプレッサSTIやランサーエボリューションなどにも採用車が広がるとともに、日本でも高性能ブレーキシステム=ブレンボというブランドイメージが定着して今日に至るわけだ。
そんなわけで、F1やモトGPをはじめ、フェラーリやランボルギーニ、ポルシェといった世界の名だたるスーパーカーがこぞってブレンボのブレーキシステムを採用するに至った現在、「ブレンボのというのはハイエンドのブレーキシステムで庶民には縁がない」と思っている人が多いと思うが、これは必ずしも「Yes」とばかりは言い切れない。例えば日本車だとシビックタイプRやレクサスRC Fなどにも標準装着されているし、マツダロードスターやGR86/スバルBRZの一部グレードにもブレンボのブレーキシステムが採用されている。レクサスRC FはキャリパーにBremboのロゴは入っていないが、調べてみるとブレンボだということがわかる。
さらに2000年以降のブレンボは企業買収や海外工場の設立など積極的にグローバル化を推し進めている。その中には小型商用車と大型車向けのブレーキシステムも含まれている。そう、ブレンボのブレーキシステムはトラックなどの商用車にも広く採用されているのだ。
具体名を上げれば、ルノー、メルセデス・ベンツ、イヴェコ、ボルボから、三菱ふそうまで。その他、ディスクローターをはじめとするブレーキ関連部品の供給などで関係のあるメーカーも多く、必ずしも「プレミアム商品専業」のブレーキメーカーというわけではないのだ。
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