【ポルシェケイマンから読み解く】 「内外装を入念に見れば、クルマの8割はわかる」

ボディの各所を見ると「空力」の良し悪しもわかる

 しかし、ボディの各所を見ていくと、さすがにポルシェは空力をよく知っていることがわかります。

 クルマの空力で大切なのは上、下、横に空気を分離させ、その分離した空気をぶつからせないこと。

 空気と空気がぶつかると渦ができ、それが負圧となって抵抗になります。

 ボディを滑らかにして空気を後ろに流すだけでなく、多方面から流れてくる空気をどう処理するかが重要なのですが、このクルマは実にうまく処理していることがわかります。

 ただし、ケイマンSのCd値は意外と高く、0.32もあります。空気抵抗が少なそうなデザインに見えますが、実は最近のメルセデスベンツのように、立ち気味で、四隅が四角く張り出し気味のフロントマスクのほうが、上下・左右の空気の流れを分離しやすく、抵抗値が低く、クルマを持ち上げるリフトも減らせるのです。

 おそらくポルシェの開発陣もこれが空力的に素性のいいデザインでないことはわかっているはずです。しかし、ポルシェの角張った顔はお客さんが許さない。

 お客さんの思い込んだブランドイメージは時として縛りつけになりますが、それはメーカーへの期待値でもあるわけで裏切れません。

 そんなハンディを背負いながら、造り込んでいくのがポルシェの仕事といえるのでしょう。

ひと目でポルシェとわかるケイマンのデザイン。空力的には不利になる形だが、そのハンディを背負いながら作り込まれていると水野氏は指摘する
ひと目でポルシェとわかるケイマンのデザイン。空力的には不利になる形だが、そのハンディを背負いながら作り込まれていると水野氏は指摘する

ボディの面構成や色の使い方を見ると、デザインセンスがわかる

 デザインでいえば、ケイマンは面の表情の造り方も相当高いレベルにあります。クルマの表面のデザインにはベースとなる面の造り(素顔)と演出するためのキャラクター(化粧)というふたつの要素があります。

 多くの日本車は、キャラクターはあるけれど面の変化がほとんどありません。ボディの面に表情がないと単なる鉄板にしか見えません。

 それをひとつの彫刻の塊のように見せるのがデザイナーの腕で、欧州には面が三次元構成され、面自体に表情があるクルマが多いのです。

 いい面というのはセンスが必要で、単なる学びではできません。この差がデザインセンスの差なのです。

 また、こういうところも大事なのですが、ケイマンの黒には色が2種類しかありません。ワイパーアームの黒とモールの黒がぴたりと合っていて、ほかの部分の黒も統一されています。

 日本車はミラーの黒、ワイパーの黒、カウルの黒、プリントの黒など、同じ黒でもすべてがバラバラで何種類もの黒色があるということがよくあります。それできれいに見えるわけがありません。

 このクルマはボディ色の明るいスカイブルーを演出するために、黒が文字どおり黒子に徹して、メインの塗装色を際立てているのです。これもデザインセンスというものです。

ボディの面構成や各パーツの色遣い。そうした部分をじっくり観察することから水野氏の評価は始まる
ボディの面構成や各パーツの色遣い。そうした部分をじっくり観察することから水野氏の評価は始まる

 “パーティング”処理を見れば、ボディの技術や精度の高さがわかる

 こうしてエクステリアを見るだけで、どれだけ賢さを盛り込んでいるかがわかります。また、フラッシュサーフェス(段差が少なく面一に近い状態)やパーティング(パーツとパーツの隙間)の処理がどこまでできているかでボディワークの技術や精度の高さもわかります。

 ボディの建て付けが悪いと、とてもこのケイマンのように小さな段差や隙間にはできません。

 ポルシェはドアの建て付け精度もとても高いのですが、それは鋳物で剛性の高いヒンジを使っているからです。日本車はプレスで剛性のないヒンジを作ってしまうので、パーティングを大きく取る必要が出てきます。

 エンジンマウントやドアのヒンジなど、一個一個の主要構造体の結合部材はとても大切。ポルシェのようにこれだけのパーティング寸法でボディを造れるということはモノコックなどの剛性が高く、乗った時のソリッド感が高いことが容易に想像できます。

 このように、走らなくてもエンジニアのレベルとクルマの素性が8割くらいわかるのです。

次ページは : 内装を見ればデザインした人の能力を見抜くことができる

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