■手持ちの駒をイッキに投入
さらに、心臓部たるFCスタック周辺も、今回の2代目で完全に一新されている。
スタック出力は12%アップの174psに強化される一方、体積は29L(マイナス21%)、重量は32kg(マイナス43%)へと大幅にスリム化。体積出力密度4.4kW/Lを達成している。
これは、最新のリチウムイオン電池の7倍ほどの出力密度レベル。FCの場合kW/hで考えるなら水素タンクや補機類を考慮しないとフェアではないが、それでもわずか29L/32kgの“箱”から174psのパワーが取り出せるというのは素晴らしい。
このほかにも、FCスタックと一体化されたFC昇圧コンバーターには最新の炭化ケイ素系パワー半導体が採用されるなど、手持ちの駒をイッキに投入してきた感がありありだし、エアポンプ類など補機類のまとめ方なども「いかにも量産車」といった感じの手際のよさ。
従来はトランクルームを圧迫していた水素タンクも、センタートンネル内に1本、後輪の前後に1本ずつの計3本の配置となり、4.6kgから5.6kgに水素搭載量を増やしながら、後席やラゲッジルームへの干渉を大幅に低減している。
これほど完成度の高いセダン型FCVが、こんなに早く登場するとは予想外。いったんヤルと決めたら粛々と進行するトヨタの実行力には恐れ入るほかはない。
■人工サウンドが意外に有効
もちろん、走りについても高い完成度から予想されたとおりの仕上がりだった。
いったん走り出せば、FCVも駆動は電気モーターが担当する。
そのシステム最高出力は182ps、最大トルク30.6kgmだから、パワーそのものは最近のハイエンドEVに比べると大したことはない。
1930kgの車重に対してドライブフィールは「必要にして充分」というレベル。ガツンと踏んだ時にテスラみたいな強烈な加速がないのを不満に思う人もいるかもしれないが、そういうタイプの人向きのクルマではない。
ただし、乗り心地やハンドリングに関しては高級車らしい上質さが上手く表現されており、これが電気モーターのなめらかな加速感とマッチして実にエレガントで心地よい。
試乗したのは富士スピードウェイショートコースだったが、FRらしい素直な操舵感、しなやかなロール/ピッチ制御、そして当たりのソフトなロードフィールなど、まさにエレガント系高級車のお手本のような仕上がりだった。
かように走りが優雅だから、どうやら開発者側としては「ドライバーズカーと思ってもらえないのでは?」という不安があるようだが、それに対応する新しい試みとして、アクセル操作に応じて人工的な走行音をスピーカーから流すという“仕掛け”が用意されていたのは面白かった。
最初はギミックと馬鹿にしていたが、サーキットを走るとこれが意外に有効。無音で加速するよりアクセルコントールで音が変わるほうが走りのリズムを作りやすいし、より速く走っているような錯覚(?)すらある。
FCVは、走行中は水しか排出しないという究極のクリーンカーだから公用車や社用車向けの需要が多く、ショーファードリブン向けのカタログモデルも用意されるが、やっぱり一等席はドライバーズシート。
EVを軽々と超えてゆく未来型サルーンとして、ぼくもいつかは所有してみたいとグラッときてしまいました。
■トヨタ 新型MIRAI主要諸元(Z 社内測定値)
・全長×全幅×全高:4975×1885×1470mm
・ホイールベース:2920mm
・最小回転半径:5.8m
・車両重量:1930kg
・最高速度・航続距離:175km/h・約850km
・燃料電池最高出力:174ps
・モーター最高出力/最大トルク:182ps/30.6kgm
・駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
・サスペンション(F/R):マルチリンク/マルチリンク
・駆動方式:後輪駆動
・乗車定員:5名
・先進安全装備も次世代トヨタセーフティセンスを装備し、万全。また駐車場位置の決定から完了までスイッチ操作だけでできるアドバンストパークも搭載するほか、走行時に取り入れた空気をPM2.5レベルの細かい粒子まで捕捉してきれいに排出する「マイナスエミッション」の空気清浄システムも新採用。
コメント
コメントの使い方