■トヨタのSUV戦略において中心的な存在となるカローラクロス
カローラクロスは、トヨタのSUV戦略において中心的な存在になる。表に記したラインナップを見ると分かりやすい。
SUVはワイドなフェンダーや大径タイヤの装着で外観の存在感が強く、ボディの上側はワゴン風のスタイルだから、居住性や積載性も優れている。カッコ良さと実用性を両立させて人気を得た。
そしてSUVには、ほかのカテゴリーとは違う多様性がある。乗用車と共通のプラットフォームを使った前輪駆動ベースのSUVでも、シティ派と野性的なラフロード派の両方をそろえることが可能だ。
例えばハリアーとRAV4は、エンジンやハイブリッドが基本的に共通で、プラットフォームもホイールベースの数値まで含めて等しい。それでも車両のコンセプトと内外装のデザイン、雰囲気は大きく異なり、別の車種として共存している。
このように基本部分を共通化して開発や製造を合理化しながら、異なる車種をそろえられるのは、SUVならではの妙味だ。メーカーにとって都合が良く、しかも好調に売られることから、今では世界中のブランドがSUVに群がっている。
そしてSUVで売れ行きを伸ばしやすいのは、日本では全長が4300~4500mmの比較的コンパクトな車種だが、今のトヨタのラインナップでは、この位置付けに収まるのはC-HRだけだ。
C-HRは前述の通り個性的なSUVで、2021年1~6月の登録台数は、1か月平均で1814台に留まる。マツダCX-8と同程度だ。そうなるとトヨタがカバーできていないSUVユーザーも多く、需要をヴェゼルなどに奪われる可能性もある。
その意味でカローラクロスは、SUVの典型的なデザインで実用性も高く、ボディサイズは適度にコンパクトだ。ユーザーとトヨタの双方にとって待望のSUVといえるだろう。そのためにカローラクロスが発売されると、トヨタは販売促進に力を入れるから、人気車になることは間違いない。
■大ヒット中のヤリスクロスを超えられるか? ヴェゼルに比べどこが優位?
大ヒットするには価格が大切だが、カローラクロスは、価格を割安に抑えている。販売促進のためでもあるが、トヨタ車同士の価格ヒエラルキーも影響を与えている。
しばしば「ヤリスクロスは割安」といわれるが、仮に価格をヴェゼルやキックス並みに高めたら、C-HRに近付いてしまう。
トヨタは車種数が多く、しかも今は全店が全車を扱うから、車種間の価格を整理しないとトヨタ車同士で不毛な競争が生じるのだ。ライバル車とのバランスも考えると、価格は必然的に決まってくる。
具体的な価格は、装備内容にもよるがC-HRに近い。2WDの場合、売れ筋になるハイブリッドの価格帯は270万~310万円、1.8Lのガソリンエンジンは230万~270万円だ。共通のプラットフォームを使うカローラツーリングに比べると20万~30万円高い。
ライバル車のヴェゼルに比べると、ほぼ同じ価格になる。ヴェゼルのエンジンは1.5Lだからコンパクトな印象もあるが、ハイブリッドのe:HEVは加速が滑らかだ。内装も上質で、後席の足元空間はカローラクロスよりも広い。ヴェゼルは燃料タンクを前席の下に搭載したから、荷室容量にも余裕がある。
カローラクロスは実用指向のSUVで、ファミリーユーザーも対象に入るから、機能と価格をヴェゼルなどのライバル車と比較される。そうなると価格の割安感も大切で、ガソリンエンジンは前述の230万~270万円、ハイブリッドは270万~310万円に収める。
そしてこの価格であれば、人気の高いヤリスクロスとのバランスもとれる。ヤリスクロスの売れ筋価格帯(2WD)は、1.5Lのガソリンエンジンが190万~220万円、1.5Lハイブリッドは230万~260万円だから、約40万円はカローラクロスが高い。
ヤリスクロスは後席が狭く、荷室容量も十分とはいえない。ファミリーカーとして使うことも無理ではないが、基本的には2名以内の乗車に適する。そこに40万円を加えるとファミリーでも使いやすいカローラクロスに手が届き、さらに40万円を上乗せするとRAV4を購入できるイメージだ。
ちなみに30万~40万円の価格差は、ガソリンエンジンとハイブリッドの差額にも相当する。車種やパワーユニットをワンランク上級化しようと考えた時、30万~40万円は、ちょうど良い価格差なのだ。
価格差が50万円では、割高感が生じて上級化を控えたくなる。ヤリスクロスとカローラクロスの選択では、ヤリスクロスを選んでしまう。逆に価格差が20万円では、カローラクロスに割安感が生じて、ヤリスクロスの売れ行きを伸ばせない。
この点を考えると、カローラクロスの価格は、前述の通りガソリンエンジンが230万~270万円、ハイブリッドは270万~310万円に落ち着く。なおこの価格差は、ヤリス対カローラツーリングにも当てはまる。
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