スバルのフラッグシップモデルであるAWDスポーツセダンWRX S4の新型は、北米での先行発表を経て2021年11月に日本で正式発表された。袖ヶ浦フォレストレースウェイで行われた試乗会では新型プロトタイプと先代型との乗り比べが行われ、コーナリングや操安性の大幅な進化を体感することができた。
そんな新型WRX S4だが大幅に価格が上がっておりBMWやアウディ、メルセデスベンツなどの欧州プレミアムゾーンに接近してきている。では新型WRX S4は手強いドイツ勢のベンチマークセダンにどこまで迫ることができているのだろうか? 松田秀士氏が検証する。
文/松田秀士
写真/スバル、アウディ、BMW、メルセデスベンツ、ベストカー編集部
■排気量アップも、スペックはパワー/トルクともに先代からダウン……
最後の内燃機関ハイパーターボの噂が絶えない新型スバルWRX S4。しかし、新型に搭載されるエンジンは2.0L(FA20)→2.4L(FA24)になったにもかかわらず、パワー/トルクともに下げられている。FA20型が300ps/400Nmだったのに対し、新型FA24型では275ps/375Nm。発生回転数はいずれも同じだ。
しかも新型WRX S4は400万4000~477万円となり、先代の334万~409万円から大きく価格帯が上がっている。この価格帯、欧州プレミアムゾーンに位置するBMW318i(495万円)に近い価格だ。
また、価格帯はグッと上がってしまうけれども、メルセデスベンツC200アバンギャルド(651万円)とは、大幅に価格は安いうえに性能面では互角といえ、WRX S4のターゲットだ。同じくアウディA4 45 TFSIクワトロS line(637万円)もそのターゲットだろう。
では、新型WRX S4は手強い欧州勢のベンチマークセダンにどこまで迫ることができているのだろうか? について検証してみよう。
■サーキット走行でスペックダウンのFA24はどう感じるか
まず先に触れたエンジンだ。2.4LのFA24にスイッチしたことでパワー/トルクともに下がっている。これはスバリストならずとも気になるところ。なので、そのフィーリングは実際どうなのだろう。
実は新型WRX S4の発表試乗会は袖ヶ浦フォレストレースウェイで行われた。サーキットなので全開走行も限界コーナリングも可能。さらに、ここでは先代モデルとの比較試乗もできたのだ。ここで感じたFA24エンジンの印象は、スペックよりもトルク重視になっているということ。
重ねて説明すると、先代FA20型の300ps/400Nmに対して新型FA24型では275ps/375Nmとパワー/トルクともに下げられていて、しかも発生回転数も同じ。こうなると明らかにパワーダウンだ。実際、全開加速した時の高回転域のパンチ力は先代のFA20のほうがある。高回転域の最後の最後での抜け感があるのだ。
■CVTの進化と2.4L化でアクセルレスポンスが向上
ただし、それが扱いやすいかというとそうでもなかった。コーナーAペックスあたりからのアクセルONに差があるのだ。実際に比較試乗したから明らかにその差を感じる。FA20のトルクの付きが若干遅れるのだ。FA24はアクセル操作にすぐに反応する。
FA24はFA20のボアアップバージョンだが、ボアピッチなど中身はほとんどが新開発。いわゆる燃費対策も含めた進化と見るべきなのだが、FA24のほうがピーキーさがなく、コーナリング中のアクセル操作がかなりイージーだ。
これにひと役買っているのがSPT「スバルパフォーマンストランスミッション」(CVT)の進化。Sモード以上では完全に固定ギヤ変速となる。さらにS#ではよりアップシフトが速くなり、加速変速ショックも演出するのだ。だからFA24エンジンにまったく不満を感じさせない。
ではBMW318iと比べてどうなのか? ただし、318iはベースグレードなので、直4ターボが絞り出すそのパワーは156ps/250NmとWRX S4の敵ではない。比較ライバルといえるのは330i Mスポーツあたりで、258ps/400Nmだ。しかしながらその価格は655万円となる。しかもこのモデルはAWDではなくFRだ。
メルセデスベンツはどうか? C200アバンギャルドは204ps/300Nmとこちらは若干劣る。アウディA4 45 TFSIクワトロS lineは249ps/370Nmだ。どうやら対象となる欧州ライバルはやはりそれなりの価格を覚悟しないとWRX S4レベルのパフォーマンスを手に入れることは困難のようだ。
つまり新型WRX S4はCVTの制御も進化したことで、パワートレーンにおいて欧州御三家よりも大きくコストパフォーマンスに優れているということになる。
■ついにSGPを採用した新型WRX
ではボディ(シャシー)、サスペンションを含めた乗り心地やハンドリングはどうか? 新型WRX S4のトピックは新型レヴォーグから引き継いだ。実際、WRX S4はレヴォーグのセダン版。より剛性アップされているのは想像に難くない。
フルインナーフレーム構造とは、プラットフォームは現行インプレッサや現行フォレスターと同じSGPを採用しているが、先にインナーフレームを構成させ、外板パネルを後から接合させる制作手法。これまで届かなかった部位へのスポット溶接を増やすことが可能となり、構造用接着剤使用範囲を拡大させ、樹脂リンフォースも採用している。
また、STIモデルにはZF社製の可変減衰力電子制御ダンパーも採用している。このZF製ダンパー装着モデルだけでなく、コンベンションダンパーを装着したGT-Hモデルでもサスペンションストロークをしっかりと感じられる。
これにはボディ剛性の進化が大きく影響していて、土台となるボディがしっかりしているからサスペンションの動きが生きているのだ。しかもその動きをリアルに感じ取ることができる。ではこのボディの剛性感を欧州御三家と比較してみよう。
■新型は快適性能も大幅に向上した
BMW318iは比較的硬めのサスペンション(ランフラットタイヤ)ながらボディの塊り感はかなりのもの。次いでメルセデスCクラス、アウディA4と続く。しかし抽象的ではあるがフィーリングから判断すると新型WRX S4の剛性感はBMW318iと大きく変わらない。
また、感心するのは室内静粛性だ。先代から比べても圧倒的に静かだ。この静粛性レベルのトップはメルセデスベンツCクラスだが、新型WRX S4はこれに匹敵するレベル。耳障り感のなさでメルセデスベンツCクラスに軍配が上がる。
さらにメルセデスベンツCクラスは乗り心地が上質でボディとサスペンションのバランスが取れている。それでいてハンドリングも素晴らしく、ほぼアンダーステアを感じさせずニュートラルステア。限界域ではリアからブレイクするが、電子制御によってスピンを完璧に抑え込んでいる。
この部分で新型WRX S4もステアリングレスポンスが速く、フロントタイヤが深い舵角までしっかりと路面を離さない。こちらもニュートラルだが、どちらかというとオーバーステア系。それをシンメトリカルAWDと電子制御でしっかりとカバーしている。ただし制御の細かさではメルセデスCクラスに軍配が上がる。
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