排ガス規制と性能低下の“反動”で生まれたシビックRS
さらにシビックは、1970年代に世界の自動車メーカーを苦しめた排出ガス浄化規制を達成するため、独創のCVCC(複合渦流調整燃焼方式)エンジンを完成させ、1973年にシビックに搭載し、発売する。
これが世界初の排出ガス規制達成車となり、トヨタ、フォード、クライスラー、いすゞと技術供与の調印がなされた。
しかし、CVCCエンジンを搭載したシビックの運転感覚は、必ずしも優れていなかった。アクセルペダルを踏みこんでもなかなかエンジン回転が上がらず、一方で、アクセルを戻しても、今度はすぐにエンジン回転が下がらない。
運転者の意思とクルマの加減速が一致しない運転感覚であった。当時、筆者は「これでクルマの時代は終わったか」と落胆したほどであった。
そこに登場したのが、シビックRSである。CVCC誕生の翌1974年であった。再びクルマの未来に明かりがともったのであった。
標準のシビックが12インチ径のタイヤであったのに対し、RSは13インチ径を装着し、そのためフェンダーを切ってより大径タイヤが入るような外観としたところも、見栄えがよく、心を踊らせた。
スポーツという言葉遣いはされなかったが、ロード・セーリングと名付けられたRSの走りは、壮快以上の強烈な衝撃をもたらした。
フィットクロスターは変わりゆく消費者の「思い」に応えた車
3代目シビックからDOHCエンジン車が加わり、これを「Si」とした。そして、6代目になると「タイプR」が登場する。
シビックのスポーティ車種がそのように変遷していくなかで、フィットに「RS」が使われるようになった。初代のシンプルなコンパクトカーという基本に、脳を刺激する運転感覚をもたらすRSが追加されたのだ。
一方、4代目となる新型フィットの車種構成からRSは消えた。では、運転の喜びを際立たせたような車種の必要性はなくなったのであろうか。
新型フィットの1.3Lガソリンエンジンを搭載したネス(NESS)を運転し、その軽快で爽やかな運転感覚は、心を軽やかに、なおかつ壮快な気分にさせた。車両重量が1090kgと軽量である点も、そうした運転感覚に寄与しているだろう。
初代フィットは、1トンを切る990kgであったが、そこから100kgほど車両重量は増えているものの、同じ1.3Lエンジンでも最高出力は15%近く増えており、パワー・ウェイト・レシオはわずかだが向上している。
3代目のRSには及ばないが、しゃにむに速さを追い求めるRS感覚とは異なる、RS本来の言葉の意味を実感させる「道をさっそうと走る」様子は、運転の喜びを充分に体感させた。
新たに車種構成に加わったのが、クロスターだ。外観に、ホイールアーチプロテクターや、サイドシル/ドアロアガーニッシュを追加し、SUV風の雰囲気を伝える。
最低地上高もクロスターは他の車種に比べ高く、未舗装路へも分け入って行けそうだ。もちろん、クロスターを含め新型フィットはすべての車種で4輪駆動も選べる。
いま、SUVは世界の市場で人気を得ており、たとえばコンパクトカーのフォルクスワーゲン ポロが、FFでありながらSUV風の外観を備えたクロスポロの人気を得、それがTクロスという新しい車種を生み出した。
トヨタでは、アクアにX-アーバンという車種が追加されてもいた。フィットも3代目で2017年のマイナーチェンジの折、モデューロからクロス・スタイルというアクセサリーが発売されている。
単に運転を楽しむだけでなく、人生を豊かにという消費者の思いが、そうした車種に人の目を集め、クロスターもその思いにこたえる車種といえる。
もちろん今後、RSが追加される可能性もなくはないだろう。だが、現行の車種構成でも、新型フィットは運転の喜びを味わわせるクルマであることに間違いない。
新型フィットを開発した田中健樹LPLが打ち立てた概念、すべてにおいて「心地よい」という狙いから外れてはいないのである。
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