開催直前で中止となった今年のジュネーブモーターショーには、伊MAT社の手によるあのランチアストラトスの復刻版となる「ニューストラトス」が出展される予定だった。
ランチアストラトスはWRCをはじめとしたモータースポーツを戦うためのベース車となるモデルで、フェラーリのディーノなどに搭載された2.4L、V6を横置きミッドシップに搭載。
量産車に求められる実用性はほぼ考慮せず運動性能を追求したモデルだけに競技車両も扱いやすいものではなかったものの、ラリーやレースで大活躍した。
ニューストラトスは現在のV8フェラーリとなるF8トリブートを基準にすると一世代前のモデルとなるF430をベースに、ホイールベースを短縮するなどしストラトスのスタイルを忠実に再現。限定25台で市販される予定となっている。
しかしニューストラトスのように市販化される名車を復刻したモデルはモーターショーへの出展はあってもほんのひと握りなのが実情で、当記事ではそんな市販されなかった復刻カーを振り返る。
文:永田恵一/写真:DAIHATSU、NISSAN、SUBARU、MAZDA、LAMBORGHINI、TOYOTA、FORD、FIAT、VW、MERCEDES-BENZ、平野学
【画像ギャラリー】過去の名車をオマージュ!! 最新のストラトスほか限定車&量産車で市販された世界の復刻カー
ダイハツDNコンパーノ
公開:2017年東京モーターショー(ダイハツコンパーノをオマージュ)

コンパーノはダイハツ初の四輪車として1963年に登場した。
コンパーノは車格としては後のカローラやサニーと同じ大衆車クラスに属し、コンパーノはクルマの上物となるアッパーボディを変えやすいラダーフレーム構造だったこともあり、ライトバンでスタートしセダン、コンバーチブル、ピックアップトラックとボディタイプを拡充した。
コンパーノの復刻版として2017年の東京モーターショーに出展されたDNコンパーノは、前席の2人を優先したコンパクトな4ドアクーペだった。

インテリアも液晶を多用するなど未来的な仕上がりとなっており、パワートレーンは1Lターボと1.2Lハイブリッドを想定と公表された。
コンパクトな4ドアクーペというDNコンパーノのコンセプトは平成初期まではトヨタカローラセレスやスプリンターマリノ、日産プレセアなどが狭さを酷評されたものだが、ここ15年ほどベンツCLSなど輸入車に4ドアクーペが増えていることもあり、DNコンパーノが市販化されればダウンサイザーなどに案外受け入れられそうな予感もする。

日産IDx
公開:2013年東京モーターショー(510型ブルーバードをオマージュ)

1967年に登場したブルーバードとしては3代目モデルとなる510型は、当時の日本車としては画期的なOHCとなる新開発の4気筒エンジンやフロント/ストラット、リア/セミトレーリングアームという四輪独立サスペンションを採用。
スーパースポーツセダンの略であるSSS(読み方はスリーエス)の設定、これらの優位性を象徴する映画「栄光への5000キロ」に代表されるモータースポーツでの活躍など、ブルーバード史上だけでなく日本の自動車史にも燦然と輝く名車である。
その510ブルーバードをオマージュしたコンセプトカーとして、2013年の東京モーターショーに予告なく当日発表されるサプライズカーとして出展されたのがIDxである。
IDxは510ブルーバードの2ドアクーペを現代風にアレンジしたスタイルやジーンズとTシャツの組み合わせのようなシンプルながら若々しいインテリアを持ち、クルマ好き以外も含めた多くの人が興味を持ちそうな仕上がりだった。
コンセプトカーのパワートレーンは標準のIDxフリースローが1.2~1.5Lガソリン+CVT、ビス止めのオーバーフェンダーを持つなど510ブルーバードが現役だった頃のレーシングカーをイメージしたIDxニスモが1.6L直噴ターボ+CVTと発表された。

駆動方式は非公表だったが、510ブルーバードの復刻版的存在だけにFRという想像が一人歩きのように広がったのも(後にFRであることが判明)、今になるとわからなくはない。
IDxは大好評で、当時の副社長だったアンディ・パーマー氏は市販化に積極的だったが、あれから6年以上が過ぎても噂すらなく、残念ながら断念されたようだ。
しかし希望的観測を書くなら、現代であれば日産が普及を進めている2モーターシリーズハイブリッドであるe-POWERのエンジンと発電モーターをフロントに置き、モーターで後輪を駆動するFRというのも夢ではない。
新体制となった日産には今からでも遅くないからIDxの市販化を再検討してほしい。

スバルエルテン
公開:1997年東京モーターショー(スバル360をオマージュ)

空冷2気筒エンジンをリアに積むRRとなるスバル360は当時の軽自動車ながら家族4人が乗れるスペースを確保し、日本の自動車黎明期に大衆に自由な移動を与えた点を代表にモータリゼーションを切り開いたという意味で歴史的なモデルだった。
そのスバル360の復刻版的存在として1997年の東京モーターショーに出展されたのがエルテンである。
エルテンはほぼ現在の軽自動車のサイズを持ち、ドアはスバル360の2ドアに対し右側は前のみ、左側は前後の3ドアというユニークなもので、全体的なスタイルもスバル360を思い出させる仕上がりだった。

スバル360は軽量化のため当時珍しかったモノコックボディを使い、ルーフは樹脂製、リアウィンドウはアクリル製、エクステリアの細部パーツはアルミ製と見方によっては現代のクルマより進んだところがあるくらい先進的だった。
エルテンも660ccの4気筒エンジンにCVTを介した4WDとなる1モーターハイブリッド(モーターは41ps!)で、駆動用バッテリーに加え放電性能に優れるキャパシタまで備えており、未来的な技術を持つという点もスバル360譲りだった。

エルテンは1999年の東京モーターショーで車体をプレオベースとしたエルテンカスタムに進化したが、市販化には至らなかった。
今になるとクルマはともかくとしてこのハイブリッドシステムだけでも世に出てほしかったと強く感じる。
ただ2004年にリアシートを小さくしたシティコミューター的な軽自動車として登場したR1が、若干ながらスバル360のコンセプトを受け継ぎ、360のニックネームだった「てんとう虫」というフレーズを随所に使っていたことはエルテンにとって救いだったかもしれない。
マツダスピードコスモ21
公開:2002年東京モーターショー(コスモスポーツをオマージュ)

1967年登場のコスモスポーツはいまだに量産化に成功したのはマツダだけとなっているロータリーエンジンを、世界で初めて搭載した量産車というだけで自動車の歴史に残るモデルである。
そのコスモスポーツを復刻版となるのが、2002年の東京モーターショーにマツダ産業(マツダE&T)が出展したコスモ21だ。

コスモ21は当時現役だった2代目ロードスターをベースにコスモスポーツをイメージした内外装を持つという成り立ちで、エンジンはその時点では登場前だったRX-8のNA2ローターのRENESISを搭載していた!
コスモ21は内外装に加え「ロードスターに燃費は悪いけどコンパクトなロータリーエンジンを積む」という走りのコンセプトも非常に興味深いもので、反響も大きかった。

ランボルギーニミウラコンセプト
公開:2006年デトロイトショー(ミウラをオマージュ)

ミウラはランボルギーニにとしては350GTに続く二作目となる、1966年登場の4L、V12エンジンを横置きミッドシップに搭載したスーパーカーである。
その復刻版としてミウラの登場から40年の節目となった2006年のデトロイトモーターショーに出展されたミウラコンセプトは、ベースは当時のガヤルドという説が有力だった。
ミウラコンセプトはミウラという伝説的なクルマの復刻版というの加え、エクステリアの完成度も高かったこともあり市販化が熱望されたが、それは現在も叶っていない。
