前年比でジムニーは1.6倍、シエラは3倍の販売増
そこで現状では、可能な限り積極的に納車して、納期の短縮に力を入れている。
ジムニーの直近の届け出台数を見ると、2020年6月:3551台(対前年比155%)、7月:3740台(同158%)、8月:3527台(同170%)になる。前年の1.6倍、発売当初の計画に比べると、毎月約3倍の台数を届け出している。
小型車のジムニーシエラは、増加率がさらに高い。2020年の登録台数は、6月:2028台(対前年比330%)、7月:2099台(同338%)、8月:1381台(298%)になる。
前年に比べて約3倍の登録があり、発売時点で設定された月100台の目標台数とは比較にならない。ジムニーとジムニーシエラは、発売から2年以上を経過するから、本来なら前年に比べて売れ行きが下がるはずだ。
しかし、納車待ちの車両が大量に残るため、今でも登録/届け出台数が増えている。特にジムニーシエラは、登録台数が増加して納期も短くなった。
6/7月の1か月に2000台少々というジムニーシエラの登録台数は、クルマの売れ行きが下がった今では中堅の販売規模だ。
SUVならC-HRやエクストレイルと同等で、新型車なのに納車の進まないキックスを上まわる。先代ジムニーシエラの売れ行きは、ジムニーの10%程度だったが、現行型は60%程度に達する。
なぜいまジムニーシエラが売れているのか
なぜ現行型になってジムニーシエラの売れ行きが伸びたのか。この点も販売店に尋ねた。
「直近の状況は、英国で海外版のジムニーが販売を終えたので、日本仕様になるジムニーシエラの生産に余裕が生じたかもしれません」
「また、以前は税金の安い軽自動車のジムニーを中心に売れていましたが、現行型では発売当初からジムニーシエラの人気が高まりました」
「ジムニー自体、悪路向けの印象を従来以上に強めので、ワイドフェンダーなどを装着するジムニーシエラが注目されるようになったのです。悪路走破力を重視すると、1.5Lエンジンやワイドな車幅のメリットが際立ちます」
と説明した。
英国では二酸化炭素排出量の規制に基づいて、ジムニーが販売を終えた。その代わり後席を装着しないジムニーの商用車仕様が登場する見込みだ。商用車になると、二酸化炭素排出量の規制値が変わり、乗用車に比べて成立させやすい。
それから現行ジムニーの性格が、ジムニーシエラの外観と、排気量の大きなエンジンに合っていることもあるだろう。
外観は直線基調を強め、従来以上に力強く野性的になった。このボディスタイルには、販売店も指摘した通りワイドなフェンダーとタイヤが似合う。
現行型では足まわりも刷新され、悪路での空転を抑える機能も採用した。走破力が向上したから、直列4気筒1.5Lのパワーを余裕を持って受け止められる。
光る“小型SUV”ジムニーシエラの性能と経済性
先代型では、ジムニーシエラの優れた動力性能と軽自動車の経済性を比べた場合、後者の魅力が勝ったが、現行型の実力は互角だ。
ジムニーシエラのエンジン排気量が、先代型の1.3Lから1.5Lに拡大したことも、直列3気筒660ccターボのジムニーとの違いを明確にしている。
走行安定性と乗り心地の向上も影響した。先代型は悪路での運転感覚を重視したので、舗装路では操舵に対する車両の動きが緩慢だった。直進安定性も物足りない。
速度を高めると前後方向の揺れも拡大して、安定性と乗り心地の両面から、高速道路や峠道を走るような長距離の移動は不得意だった。
それが現行型では、20年ぶりのフルモデルチェンジを実施しただけあって、先代型に比べると操舵感の緩慢さや乗り心地の悪さが気にならない。長距離を安心して快適に移動できるようになり、特に1.5Lエンジンのメリットが際立ってきた。
価格の割安感はさほど変わらない。4速ATで比べると、ジムニー「XC」は187万5500円、ジムニーシエラ「JC」は205万7000円だ。
ジムニーシエラは18万1500円高いが、エンジンは4気筒になってオーバーフェンダーも装着され、ジムニーに比べて割高な印象は受けない。そこでジムニーシエラに目が向いた面もあるだろう。
ジムニーとジムニーシエラの税金が接近したことも影響を与えた。2015年3月までの軽自動車税は年額7200円だったが、4月以降は1万800円に値上げされた。
その一方で1.0~1.5Lエンジンの自動車税は、従来の年額3万4500円から3万500円に値下げされている。
その結果、2015年3月までは、ジムニーシエラの税額はジムニーに比べて年額2万7300円高かったが、今の差額は1万9700円だ。税金の印象も変わった。
そして最近は、ライズ、キックス、ヤリスクロスといったコンパクトなSUVの人気が高い。しかも今のSUVでは、悪路向けをイメージさせるRAV4などが注目されている。
好調に売れるライズも、RAV4に似て悪路指向を感じさせ、SUVの売れ行きに原点回帰の傾向が見られるようになった。
そうなるとジムニーシエラは気になる存在だろう。後輪駆動をベースにした4WDを備えるフレーム構造の本格的な悪路向けSUVになるからだ。
走破力はジムニーを上まわり、輸入車を含めて、日本で買えるSUVの中では悪路性能が最も優れている。この伝統的な持ち味が、今のトレンドに沿って人気を高めた。
コンパクトなSUVは、日本車、輸入車ともに数多くの車種が売られているが、後輪駆動ベースの本格的な悪路向けは小型車のジムニーシエラと軽自動車のジムニーだけだ。
注目されるカテゴリーなのに、該当車種がジムニーシリーズに限られることも、売れ行きが伸びた理由だろう。
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