■電動パーキングブレーキはディスクとドラムブレーキで構造が大きく異なる
EPB(電動パーキングブレーキ)は、構造によって2種類に大別することができる。1つは従来のサイドブレーキのワイヤーを電動モーターで巻き取るようにしたタイプ。これはEPBを作動させた時にウィーンとワイヤーを巻き取るモーターの音が聞こえると同時にリアサスが引っ張られて若干沈み込む(リアサスのピボット位置とパーキングブレーキの巻き取り&ブレーキ位置の位相から起こる)のも、この形式の特徴だ(とはいえ車種によって差はある)。
もう1つはディスクブレーキのキャリパーに直接モーターを組み込み、モーターでキャリパーピストンを駆動させてパーキングブレーキとしているタイプ。
今ではコストダウンも進んだため、圧倒的にこちらのほうが多くなっている。ドラムブレーキは構造上、モーターを組み込むのが難しいので、EPBを採用する場合はワイヤー巻き取り式にする場合が圧倒的に多い。
つまり、EPBは四輪ディスクブレーキの、どちらかといえば高級車向けの装備なのである。それでもドラムブレーキでもEPBを採用している車種があるのは、構造はともかく使い勝手を向上させたり、高級感を演出したいためだ。また日産リーフ(初代)のように「EVらしさをアピールするために、EPBを採用している。
■電動パーキングブレーキのメリットとは?
EPBのメリットは、スイッチ1つで操作できるので、力がいらないことと、スイッチのレイアウトの自由度が高いこと。また作動させたまま走行してしまっても警告などが出るため、戻し忘れたまま走り続けるようなことはまずないし、最近はDレンジでアクセルを踏むと自動的に解除してくれる車種も増えてきた。
さらにEPBは単にスイッチでモーターを駆動させてパーキングブレーキの作動と解除をしているだけじゃなく、いろいろな状況に応じて細かい制御の調整を行なっている。道路の傾斜をセンサーで検知して、確実に固定できるようブレーキの強さを調整してくれる。
Pレンジに入れるだけでパーキングブレーキを作動させたり、前述のようにブレーキペダルを踏んだ状態でDレンジにシフトするとパーキングブレーキを解除し、さらに道路が傾斜していれば、坂道発進などでズルズル下がらないようにヒルホールドを作動。
ヒルホールドなどの機能は電動パーキングとは別の、EBS(電子制御式ブレーキシステム)で液圧の制御により行なっているクルマもある。高級車ほど、様々な制御を複雑に組み合せて快適性と安全性を高めているのだ。
■電動パーキングブレーキの弱点は、いざという時にサイドターンが使えない?
ではEPBに難点はないかというと、そんなことはない。最大の難点は「サイドターンが使えない」ということだ。
別名スピンターンとも呼ばれるこのドライビングテクニックは、走行中に前輪に荷重を移すと同時にステアリングを切り、旋回モーメントが立ち上がったところでサイドブレーキを引いてリアタイヤをブレークさせ、一気にクルマの向きを変えるというもの。ジムカーナの180度ターンや360度ターンで使われるドラテクだ。
別にジムカーナに出場する訳じゃないし、と思う人もいるかもしれないが、ドイツでは緊急回避のテクニックとしてクルマの向きを変えるサイドターンをドライバートレーニングなどで教える。欧州の寒冷地などでもステアリングが利かなくなった時にサイドブレーキで向きを変えてコントロールするテクニックは一般的だ。
EPBでは車速が0の状態でなければ作動しないため、この技が事実上使えない。スイッチを作動させても警告音が出てキャンセルされるだけ、というクルマもある。最近は長押しすることで作動できる車種もあるが、この場合はワイヤーを手動で引くのとは異なり、かなり遅れて作動するので思うようにコントロールするのは難しい。
BMWは走行中に長押しなどの操作をすると、ドライバーが急に体調不良となり助手席の乗員(エアバッグ用にシートにもセンサーがあり乗車の有無が判別できる)が操作したと判断すれば、緊急ブレーキとして四輪のブレーキを作動させるようだ。これは前述のEBSとEPBが連携しているからこそ、実現できる制御だろう。
現時点でサイドターンが可能なEPBを採用しているのが確認できたのは、ポルシェだけだ。これもデフォルトの状態ではキャンセルされるが、スポーツモードを選んだ時には走行中でもEPBが使え、スイッチを作動させれば即座に制動力が立ち上がるので、サイドターンも可能になっている。
最近のクルマはESC(横滑り防止装置)など、クルマの方で姿勢を制御する技術が盛り込まれているので、サイドターンを一般道で使うような状況は自動車メーカーは想定していないのだろう。
しかし、最終的には運転の責任はドライバーが負うのであれば、危険を回避できる手段としてサイドターンが使える選択肢も残しておいてほしいものだ。
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