■褒めてもらえるなら… 祖父・喜一郎からの「ありがとう」
BC/モリゾウさんが尊敬する経営者を教えてください。
モリゾウ/尊敬するというよりも、褒めてもらいたい人がたったひとりいます。祖父の喜一郎に「お前のような孫がいてよかった。ありがとう」と言ってもらえたらそれが一番です。
BC/トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏のことは、本で読みましたが、たいへんなご苦労をされていますね。特にGHQの占領下で行われた財政金融引き締め政策(ドッジ・ライン)によって、日本が不況に陥るなか、トヨタも原材料の高騰などから債務が増大し、会社は人員整理に踏み切らざるを得なくなる。その結果、労働争議が激化し、喜一郎氏はその責任を取る形で社長を辞任しました。
モリゾウ/従業員は家族も同じで、彼らを辞めさせるなら、自分も辞めて当然と考えたのでしょう。2年後に社長復帰が決まりますが、直後に脳溢血で倒れ57歳で亡くなりました。私が生まれた時にはすでに亡くなっていましたが、トヨタ自動車の礎を作るために、本当にいろいろな苦労があったと思います。
以前、喜一郎を直接知る方々に聞いたところ、「ものづくり」を大切にするトヨタの思想が浮かび上がってきました。私は52歳で社長になりましたが、57歳を超えてからは、仏壇で手を合わせるたびに「迷いながらも、まだ生きています」と報告しています。
BC/モリゾウさんにとって、喜一郎氏が鑑なのですね。
モリゾウ/私は創業者ではありません。バトンを引き継いで次に渡すのが役目であり、「ものづくり」を大切にした創業者の想いというものを、胸に刻み込んで、いろいろな判断をしているつもりです。
■トヨタの社長は修行僧のようなもの。経営者として上杉鷹山を尊敬する
BC/とても聞きにくい質問ですが、モリゾウさんは、ご自身の定年をどうお考えでしょうか?
モリゾウ/それはですね……(定年は)欲しいけどないでしょうね。トヨタの社長は修行僧のようなもので自由もないし、ゴールもない。責任だけはとてつもなく大きく、こんな家業やってられませんといいたいところですが、次の社長にいい形でバトンを渡すことは私の責任です。
BC/モリゾウさんは「トヨタの社長は特別大きな権力を持っているが、『その権力を何に使うか』ということをずっと考えている」とおっしゃっていますが、もう少し詳しく教えてください。
モリゾウ/先ほど尊敬する経営者の話が出ましたが、歴史上の人物というか偉人では、上杉鷹山が好きです。
彼は17歳で米沢藩の藩主になると家老たちと衝突しながら、藩を立て直すために改革を断行します。彼は権力を自身のためでなく、藩や領民のために使っています。
BC/タブーを怖れずトヨタを改革してきたモリゾウさんとダブります。確か上杉鷹山は「財政再建」、「産業振興」、「心の改革」といった三大改革を行いました。
モリゾウ/「心の改革」が、とても参考になります。彼はみずからに倹約を課し、藩士や領民たちには「自分は藩に対して何ができるか?」という意識を育てています。
彼の言葉に「して見せて、言って聞かせて、させてみる」という言葉がありますが、現場に足を運びながら、話を聞き、丁寧に説明しながら、やる気を起こさせている鷹山の姿が思い浮かびます。
人材育成には失敗させることや調子に乗せることも必要で、時間がかかるものなのです。
コメント
コメントの使い方西郷隆盛以外はとても共感する、深い話でした。さすが大企業の大黒柱。
とくにソニー&ホンダに自工会に入って欲しいというのは、今入っていない事に驚きましたし
テスラやGM含めてBEVで深刻な不具合出ていてもアップデートしますからで済ませているのは本当に顧客軽視だと思っているので、阻止して欲しいです。