2012年2月、「スポーツカー冬の時代」といわれた昨今にあって、トヨタ86/スバルBRZの登場は「事件」だった。それから1年。この事件を振り返るとともに、86のチーフエンジニア・多田哲哉氏にロングインタビューを敢行!(本稿は「ベストカー」2013年4月26日号に掲載した記事の再録版となります)
文:片岡英明、編集部
■累計国内販売台数は86が2万4616台、BRZ6462台 86は成功したのか?(文:片岡英明)
今から1年前の2012年春、トヨタ86と兄弟車のスバルBRZが発売された。正式発表の前から予約が多数舞い込み、人気の高さを証明するように、発売直後には多くのバックオーダーを抱えた。パニックに陥ったのはBRZだ。生産台数が少なかったこともあり、一時は納車まで1年待ちの状態になっている(今は解消)。
●クルマ界への貢献度が高い
トヨタ86(とBRZ)は200万円台で買える数少ないスポーツモデルであり、駆動方式も走り屋好みの後輪駆動とした。ロードスターもFRのスポーツカーだが、2人乗りだから誰でもオーナーになれるワケじゃない。
トヨタ86が登場したことによって日本の自動車業界はチョッピリ活気づき、元気を取り戻している。
クルマ離れが声高に叫ばれていたが、今でも走りが好きなファンはいる、と再認識したクルマ関係者が少なくなかったのだ。また、クルマに関心を持つ若者や年配のクルマ好きが羨望から一歩踏み出すキッカケも作った。
86/BRZのファーストインプレッションは悪くなかった。世界でも数少ない水平対向エンジンを積んでいることが、スポーツモデルとしていい方向に向いたのである。高回転まで軽やかに回り、軽量で重心も低いから気持ちいいハンドリングを味わえた。発売1年後の今も、思わず笑顔になるようなハンドリングは変わっていない。
86は理屈抜きに運転が楽しいクルマだ。6速MT、6速ATともにギアのつながりは滑らかだし、フットワークもさえている。操る楽しさは格別だった。走りに関しては多くの項目において合格点に達している。
●気になるところも
だが、「もてなし」や「しゃれっ気」といった点の演出は物足りない。エクステリアデザインに色気を感じさせるところが少ないし、ボディカラーももう少し増やしてほしかった。これはインテリアにも言えることだ。ヨーロッパ勢と比べ、デザインも質感も、そしてこだわりも見劣りする。
個人的にはオドメーターとトリップメーターが切り替え式なのが気に入らない。スポーツモデルにとってメーターは、健康状態や情報を得る不可欠なものだと信じているからだ。多くのクルマを乗り継いできた口うるさいオジサンをときめかせる「こだわり」が足りないと思う。
また、エアロパーツなどの純正アフターパーツが少なく、ドレスアップやチューニングのメニューが限られるのも残念なところである。ただし、この手のパーツは少しずつ増えていくだろう。
●販売も順調で今後に期待
走りの質感も合格点に届いているが、エンジンやサスペンションなどの味付けは中途半端だ。これもマイナーチェンジのたびに熟成されていくはずだ。当然、バリエーションも増えていくだろう。そのなかには走りの方向に振ったグレードやラグジュアリー志向のグレードもあるだろう。今後の発展、進化に期待したい。
86の日本での販売は、月に2000台程度である。BRZはその半分にも満たないが、スポーツセダンやクーペが不毛の時代にあっては成功作と言えるだろう。課題は、この好調をずっと維持できるように、真剣にスープアップに取り組むことだ。インプレッサやランエボ、GT-Rのように明快に進化した姿を見せてほしい。
日本では好調だが、海外での人気は今一歩だ。出だしはよかったが、半年ほどで売れゆきは落ち着いた。海外ではスポーツモデルは珍しくないし、FFスポーツやスポーツセダンにも魅力的なクルマがたくさんある。トヨタ86とBRZの真価が問われるのはこれからだ。
コメント
コメントの使い方大袈裟ではなく、日本の車文化とアフターパーツメーカーたちを救った存在になりました。
息を吹き返したパーツ類の提供は、BRZらに限らずZC33やNDらにも手厚く普及していく礎となり、今や海外から羨まれるカスタマイズ基盤ができあがっています。
最大手が・安価で・車名や低重心などなりふり構わぬ話題作りして・カスタム推奨の車造りで提供した。その一つでも欠けたら不可能な大転換劇でした。