2019年末、WRX STIの販売終了をもってEJ20エンジン30年の歴史が終了した。
それから約8カ月後の2020年8月20日、新型レヴォーグの先行予約が開始され、2020年10月15日に正式発表となった。
ここで注目したいのは、新型レヴォーグに初搭載された新型1.8L水平対向4気筒エンジン。FB16型エンジンの登場から実に10年ぶりの新エンジンである。
さて、CB18型と名付けられた、完全新規開発となるこの1.8L水平対向エンジンはどれほど進化を遂げたのか?
また、今後この新しいCB18型エンジンはどうなっていくのか? モータージャーナリストの岡本幸一郎氏が解説する。
文/岡本幸一郎
写真/ベストカーweb編集部 ベストカー編集部 スバル
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CB18型1.8L直噴ターボはFB16型の後継エンジン

新型レヴォーグに搭載される「CB18型」は、型式が変わったことが示すとおり、完全に新規に開発された1.8L直噴ターボエンジンだ。
初代レヴォーグにはFB16型とFA20型がラインナップされていたが、販売比率が圧倒的に高かったFB16型の後継とみてよい。
ボア×ストロークはFB16型が82.0×78.8mmであるのに対し、80.6×88.0mmとロングストロークとされているのも特徴。
スペックは最高出力177ps/5200~5600rpm、最大トルクは30.6kgm/1600~3600rpmと、同177ps/4800~5600rpm、25.5kgm/1800~4800rpm のFB16型から、最高出力が+7ps、最大トルクが+5.1kgmと、特に最大トルクが大きく向上している。
FB16型搭載車に改めて乗ると、アクセルの踏み始めにしゃくれあがるような加速の立ち上がり方をすることや、アクセルレスポンスがあまりリニアでないところが気になり、加速力そのものにも物足りなさを覚えた。
ところが新しいCB18型は、むろん改良されたリニアトロニックとの組み合わせも効いてのことだろうが、初期から加速フィールがリニアでダイレクト感があり、フラットトルクで扱いやすく、第一印象は上々だった。
なぜこのタイミングでエンジンを全面刷新したのか?
このタイミングでエンジンを全面刷新した最大の理由は、新型レヴォーグに相応しいエンジン性能目標を達成するには、既存のFA型やFB型がベースでは難しいと判断したから。
CB18型の開発にあたっては、出力特性、燃費、安全性のすべてを高次元でバランスさせることを念頭に改良を図ったという。
実のところ初代のユーザーからはFB16型の動力性能への不満の声が少なからず聞かれた。
スバルにとってツーリングワゴンはパフォーマンスワゴンであり、それでは非常によろしくない。そこでエフィシェンシー(効率)を確保しながらパフォーマンスを高めるべく、排気量を増やすことを考えた。
とはいえ、2Lまで拡大すると燃費面で不利になってしまうので、1.8Lとすることを前提に、クランク長からボア×ストローク、ボアピッチなどすべてを1.8Lエンジンとして最適となるようイチから設計し直した。以前のように既存品からブロックを流用しておらず、完全新設計となる。
CB18型ではレスポンスを向上して低回転域からトルクを立ち上げるためにターボチャージャーを小径とするとともに、リーンバーンを採用して効率を高めているのも特徴で、空気過剰率(実際に供給される空気量を理論上必要な最少空気量で割った値)は2を実現しており、空燃比は25~26程度となり、熱効率は40%を達成している。
リーン燃焼中はミラーサイクルではなく、ターボチャージャーによる過給で空気を送り込み補っている。
他社で見受けられる高応答エアサプライのようなシステムを用いる案も考えたが、ターボチャージャーをより効率的に使おうとの発想からオーソドックスな手法としたという。
さらに、リーンバーン化に合わせてインジェクターを着火性に有利なセンターマウントとするとともに、FB16型にあったタンブルジェネレーションバルブを、ポンピングロス低減のために廃している。ノッキングにも万全に配慮しており、レギュラーガソリン仕様を維持しているのもありがたい。
ターボチャージャーはシングルスクロールに変更
ターボチャージャーは、FB16型のツインスクロールをやめて、CB18型ではシングルスクロールとした。
それは排ガス対策の一環として触媒を少しでも早く温めるため、できるだけ熱を逃がさず触媒に集められるよう、従来は左右2本ずつ出ていた排気系をCB18ではヘッドのなかで1本にしたというやむをえない理由によるものだ。
また、リーンバーンを採用すると三元触媒が効かないため、NOxが出てしまうことに対しては、NOxを吸着して還元するトラップ触媒を採用した。
燃焼効率のさらなる向上のため、エンジン自体も工夫している。たとえばフリクション低減を図るべく、オフセットシリンダーを採用したほか、ピストンスカートにもともと潤滑性のあるコーティングを施していたところにパターンを配し、オイル保持だけでなく必要な時に必要なオイルをかき集めるようなアイデアを採用した。
オイルが常に介在するとそれはそれで不都合があるところ、これにより爆発工程前と圧縮工程の力を受けるタイミングだけ適宜オイルを集めることができるという。
そのほかにも多岐にわたり変更されているが、効率向上のため、可変式のオイルポンプをスバルとして初めて採用したのも新しい。これによりエンジンオイルの総量を減らすことができたのもメリットのひとつだ。
FB16型よりも約15kg軽量でコンパクト
CB18型はFB16型よりもずっとコンパクトで約15kgも軽くなっていることも特徴だ。
全長を詰めるためにクランクシャフトのカウンターウエイトを3分の2の厚さとしたことは軽さにも寄与しているほか、チェーンカバーを樹脂とするなど、これまでアルミの鋳物だった部品のさらなる軽量化を図っている。
コンパクト化により安全面でも、全長を44mm縮めたことで、エンジン前のスペースが広く空いたことで、クラッシャブルゾーンをより大きく確保することができた。これが衝突安全性能の向上に効くことはいうまでもない。

VTD-AWDの搭載は見送られた
ご存じのとおり、先代レヴォーグにはFB16型のほかにFA20型の設定があり、前車にはアクティブトルクスプリットAWDが組み合わされていたのに対し、後車にはセンターデフを用いてトルクをリアよりに不等配分することで回頭性を高めスポーティな走行を楽しめるようにするVTD-AWDが搭載されていた。
まさしくWRX S4のワゴン版といえるFA20型搭載モデルの存在が、初代レヴォーグのイメージリーダーとしての役割をはたしていた側面もあるわけだが、新型レヴォーグにはいまのところ、CB18型以外の高性能エンジンやVTD-AWDを搭載する予定はないという。
今後CB18型はどんな車種に展開されていくのか?
インプレッサスポーツやインプレッサG4のマイナーチェンジが2020年10月8日に行なわれたが、e-BOXERとSTIスポーツが追加されたものの、CB18型は搭載されなかった。
一方で、2020年10月22日に行なわれるフォレスターのマイナーチェンジでは、従来の2.5LNAを廃止し、1.8LターボのCB18型が搭載されるという。
このエンジンが今後どのように発展するのかはわからないが、ボアピッチは98.6mmとあまり大きくなく、ボア方向での排気量拡大は考えられない。設計からすると1.8Lが上限と見てよい。
いずれ新しくなるであろうWRX系にどんなエンジンが積まれるかも大いに気になるところだが、CB18型で追求したのはあくまでエフィシェンシー(効率)であり、パフォーマンスはあまり考えていないと開発者も述べていたことから、WRX系に搭載されるとは考えにくい。
一説には次期WRX STIにはFA20ターボをベースに排気量を2.4Lに拡大したFA24ターボが搭載されるという情報もあるようだが、さだかではなく、いずれにしても次期WRXに与えられるのは、拡張性を持つFA型やFB型の次の世代のエンジンと考えたほうがよさそうだ。
むしろ今回のCB型の系統は、1.6L程度に排気量を縮小したり、過給を行なわず自然吸気とするようなデチューン方向の展開のほうが考えられる。CB型エンジンの本質は、あくまでエフィシェンシーの追求にあるのだ。