スバルのモータースポーツ活動を行うSTIが手掛けるコンプリートカーの最高峰である「Sシリーズ」をはじめとするメーカー直系のカスタムカーは、圧倒的なハイパフォーマンスと限定販売によって発売からすぐに売り切れるほどの人気モデルとなっている。
しかし、こういった限定コンプリートカーのなかには、日本車ベースにもかかわらず、残念ながら海外の現地法人系の企業などによって販売されただけで、日本では販売されなかったモデルもあった。
文/永田恵一
写真/SUBARU STI 日産 スズキ
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インプレッサWRX STI CS400 (イギリス限定)
エンジンに代表される機能部分、ラッピングなどでエクステリアに手を加えたマニアックな限定車が早期に完売するのは万国共通である。
日本メーカーによるそういった限定車も、そのほとんどは母国である日本を最優先に販売されるものだが、なかには海外にある現地法人で企画され、海外だけで販売された魅力的な限定車というのもある。
ここでは、そんなクルマたちをピックアップしてみた。
イギリスのエンジンビルダーであるコスワースは、1960年代から80年代までという長きに渡ってF1で活躍した名門。
150勝以上を挙げたDFVをはじめとしたレーシングエンジン、モータースポーツ参戦を目論んだ市販のホモロゲーション取得モデルのエンジンチューンや少量生産の市販車のエンジン開発のサポートなどを行ってきた。
そのコスワースが手掛けたエンジンをインプレッサWRX STIに搭載し、クルマもトータルチューニングし、イギリスで2010年に75台限定で販売されたのがCS400だ。
CS400は海外仕様のインプレッサWRX STIがベースのため、日本仕様の2リッターフラット4ターボではなく、2.5リッターフラット4ターボを搭載しており、その2.5Lフラット4ターボのヘッド、ピストン、コンロッドといったエンジン本体をはじめ、ターボチャージャーや排気系、コンピューターといった周辺パーツにも大幅に手が加えられ、最高出力は300馬力から400馬力に向上。
0~100km/h加速も5.2秒から3.7秒と1.5秒も短縮されており、おそらく市販仕様ではWRX STI史上最速のモデルである。
またCS400はAPレーシングのキャリパーや大型化されたローターといったブレーキ、専用スプリングなどによるサスペンションといった足回りの強化も抜かりないほか、内外装がシックにまとめられている点も大きな魅力だ。
当時の価格は日本円で670万円と、内容を考えれば激安と言わざるを得ないものだった。
S209 (アメリカ限定)

STIは2017年にそれぞれ限定500台となるBRZ tSとWRX STI TYPE RAをアメリカで発売した。2019年、この2台に続くWRX STIをベースにしたアメリカ専売の209台限定車として投入されたのがS209である。
エンジンは、S209も前述のCS400同様に海外仕様ということもあり2.5Lフラット4ターボを搭載。タービンや排気系の変更、専用ECUの採用などにより最高出力は標準の310馬力から341馬力に向上させている。
車体の強化も、STIがビルシュタインと共同開発したダンパーを使うなどした専用サスペンション、STIのフレキシブルタワーバーやリアシート後方にも加えられたフレキシブルドロースティフナーなどの追加によるボディ補強が施されていて抜かりない。
またエクステリアは、軽量化の効果が大きい車体の一番高い部分であるルーフをカーボン製に変更したのに加え、タイヤサイズを標準のWRX STIに対して20mmも太い265幅のタイヤを装着し、そのタイヤのためにフェンダーを拡幅した点も目を引く。
筆者はS209にちょっと乗ったことがあるが、2.5Lという排気量により運転がイージーなのに高回転まで回した際の面白みも期待以上に備えているエンジン、荒れた路面にもしっかり追従するサスペンション、リアシート後方に加えられたフレキシブルドロースティフナーの効果が大きいと思われるハンドル操作に対する応答性のよさが強く印象に残っており、日本でも発売して欲しいモデルだった。
ランサーエボリューションX FQ-440MR (イギリス限定)

2014年に40台限定のイギリス専売という形で発売されたランサーエボリューションX FQ-440MRは、三菱自動車のイギリス進出40周年を記念したモデルである。
その内容は、エンジンではHKSのターボチャージャー、マフラーなどの吸排気系の変更、専用ECUへの変更といった、チューニング業界でいうターボチャージャー交換で武装。
スペックは、日本仕様の標準車の最高出力300馬力&最大トルク43.0kgmから、同じ2L、直4ターボのままで最高出力440馬力&最大トルク57.0kgmにパワーアップされた。
車体の強化もアルコン製のブレーキやアイバッハ製のコイルスプリングの採用など抜かりなく、前述したインプレッサWRX STI CS400と似た部分もあるモデルである。
また2015年の東京オートサロンには三菱自動車がランサーエボリューションX ファイナルコンセプトという、エンジン関係以外にサスペンションもHKSのパーツで強化したモデルを出展したことがあり、FQ-440MRはこのファイナルコンセプトにも通じるところを持つモデルでもあった。
スイフトスポーツカタナ(オランダ限定)
大型サイズを中心としたスズキのオートバイである1981年に登場した「カタナ」は日本刀をモチーフにしたデザインなどで人気となった名車で、その新型車も2019年に復活している。
ちなみに、最近残念ながら解散となった石原プロモーション製作の伝説的な刑事ドラマとした未だにファンの多い『西部警察のパートⅡ』以降で館ひろし氏演じる鳩村刑事が乗っていたバイクも1100ccのカタナだった。
そのバイクの「カタナ」の復活とスイフトスポーツとのコラボレーションにより2019年に30台限定でオランダにて販売されたのがスイフトスポーツカタナである。
スイフトスポーツカタナはバイクのカタナに通じるシルバーとブラックのボディカラーをそれぞれ15台限定で設定し、ボディにはバイクのカタナを思い出させる漢字の「刀」の文字を含んだラッピングなどが施された。
機能面では、車高が下げられたほか、専用マフラーの装着に加え、ミシュランパイロットスポーツ4のタイヤと組み合わされる1インチアップの18インチホイールもオプションで設定。インテリアもレザーとアルカンターラのコンビとなるシートなどでドレスアップされていた。
当時の価格は日本円で約357万円だった。なお2020年の東京オートサロンではスズキがスイフトスポーツカタナの影響を受けていると思われる、バイクのカタナのシルバーのボディカラーに塗られ、スイフトスポーツのボディを大幅に拡幅するなどしたスイフトスポーツカタナエディションを出展した。
ジュークR (ヨーロッパ限定)
ジュークRは現行GT-Rの3.8L、V6ツインターボ+デファレンシャルと一体化されたトランスミッションをリアに置く独立型トランスアクスル4WDというパワートレーンをジュークに移植したという破天荒なモデル。メディアへの公開後ヨーロッパ限定で3台程度が6000万円近い価格で販売されたと言われている。
車内はリアシートこそあるものの、ロールケージが付き、フロントシートはフルバケット+フルハーネスとなるなど、レーシングカーのようだった。
クルマ自体はジュークがベースということもあり現行GT-Rほどは速くなく、GT-Rのような高い完成度も持っていなかったようだが、夢のある愛すべき存在なのは事実だ。