■販売不振の原因は商品力にある!? ライバルにある「押し」が不足しているのか
販売不振には、現行フィットの商品力も影響している。筆頭に挙げられるのはフロントマスクだ。オデッセイやインサイトなど、現在のホンダ車に通じる柔和な顔立ちだが、フィットはSUV風のクロスターを除くとグリルを小さく抑えた形状で個性が強い。
ボディが腰高に見える欠点もある。内装も2本スポークのステアリングが個性的で、インパネの上面を平らに仕上げたから立体感も乏しい。
現行フィットは前後左右の視界を向上させ、内外装には優しい雰囲気を持たせた。そのためにフロントマスクは控え目な形状で、ボディの側面は水平基調だ。インパネ上面も突起物を抑えて機能的だが、存在感が少々弱く、価格が高そうにも見えない。そこが第一印象で損をしている。
ほかの販売が好調なコンパクトカーは、分かりやすい特徴を持たせた。ヤリスはWLTCモード燃費が35.4~36km/Lだから、日本で購入可能な乗用車では最良の数値だ。衝突被害軽減ブレーキは、自車が右左折する時にも、歩行者を含めて作動する。
ヤリスのエンジンは、直列3気筒の1L、1.5L、1.5Lハイブリッドと豊富だから、価格帯も幅広い。最も安価な1LのX・Bパッケージは、衝突被害軽減ブレーキを省いたから推奨できないが、価格は140万円を下まわる。フィットの最廉価グレードよりも16万円以上安い。
ノートは現行型になってNAエンジンを廃止した。ハイブリッドのe-POWERだけだから価格はすべて200万円以上だが、内外装の質感も向上させた。
特にステアリングホイールの奥側に配置された7インチの液晶ディスプレイは、高機能で見栄えも良い。ノートはグレード構成を価格の高いe-POWERに限定して、NAエンジンを廃止したことで、車両全体の質も高めた。
これらのライバル車に比べてフィットは、デザインからメカニズムまで全般的に地味だ。先代フィットのユーザーが現行型を見た時に「カッコいい」とか「先進的」といった感情を抱きにくい。先代型と機能を冷静に比べて選ぶから、「先代型から現行型に乗り替える必要はない」と判断することも多いだろう。
■フィットの販売不振をよそにN-BOXは絶好調!! 今や「モンスター」と称される
また同じホンダのN-BOXは相変わらず販売が絶好調だ。ヤリスとヤリスクロスの登録台数を別々に算出すると、2021年の1ヵ月平均は、両車ともに9000~1万台だ。そのために国内販売の実質的な1位は、2021年に1か月平均で1万8614台を販売したN-BOXになる。
ホンダの商品企画担当者の1人は、N-BOXを「モンスター」と表現した。絶好調に売れるのは良いことだが、N-BOXはほかのホンダ車の需要まで吸引しているからだ。
そこで最近はN-BOXの宣伝をあまり行わず、ディーラーオプションプレゼント、残価設定ローンの低金利なども適用を除外している。販売店からは「販売促進を含めて、N-BOXをあまり積極的に売るなと指示されている」という話まで聞かれるが、届け出台数は下がらない。
N-BOXのようにメーカーが想定した以上に売れて、その売れ行きがほかの車種にまで弊害を与えるクルマは、過去に例がない。売れ行きをコントロールできず、極端にいえば販売が暴走しているから「モンスター」なわけだ。
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