最近は安全装備の充実などによってクルマの価格が高まり、その一方で平均所得は1990年代の後半を下まわる状態が続く。
そのために今の売れ筋カテゴリーは、軽自動車と全長を4m前後に抑えたコンパクトカーだ。国内で新車として売られる小型/普通乗用車の内、約40%をコンパクトカーが占める。
その代表車種がフィットだ。初代モデルは2001年に発売され、翌年には軽自動車まで含めた国内販売の総合1位になった。2020年2月には、現行型にフルモデルチェンジされている。
コンパクトカーの代表車種が新型に切り替わったのだから、好調に売れて良いはずだ。
ところが現行フィットの登録台数は伸び悩む。2021年1~5月の1ヵ月平均は5259台に留まった。ライバル車のヤリス(SUVのヤリスクロスとスポーツモデルのGRヤリスを除く)は、2021年1~5月の1ヵ月平均が9646台だ。
一方、新型ヴェゼルは2021年4月23日の発売1ヵ月後の受注台数は約3万2000台を超え、月間販売目標台数の5000台の6倍以上と、幸先のよいスタートを切っている。
N-BOXも登録者を含む新車販売台数においては4年連続NO.1、軽四輪車新車販売台数においては6年連続NO.1と絶好調を維持している。
新型ヴェゼル、N-BOXの裏で、ホンダの看板車種であるはずのフィットの販売不振。なぜフィットだけが売れていないのか? 何か深い原因はあるのか、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカーweb編集部 ホンダ
【画像ギャラリー】現行フィットの特徴って何だろう?主要グレードも並べて再検証してみた
■なぜフィットは売れていないのか?
ノートは現行型になってNAエンジンを廃止したが、ハイブリッドのe-POWERのみで1ヵ月平均が7961台になる。その点でフィットは、ハイブリッドのe:HEVと1.3L、NAエンジンを用意して5259台だから、売れ行きが明らかに低い。
また現行フィットは、発売時点で1ヵ月の販売計画を1万台と設定していた。今の販売計画の考え方は、いわゆるコミットメント(公約)で、その車種が生産を終えるまでの平均値とされる。
クルマの売れ行きは、発売から時間を経過すると低下するので、発売後の1~2年は計画台数を上まわらねばならない。それが販売計画の約半数では、将来が心配される。
なぜフィットの売れ行きが伸び悩むのか。この点をホンダの商品企画担当者に尋ねると、以下のように返答された。
「現在のフィットの販売低迷には、半導体の不足を筆頭に、さまざまな原因が絡む。市場のフィットに対するニーズは高いが、生産体制がそこに対応できていないのが実情だ」。
そこで販売店にもフィットの状況を尋ねると以下のような返答だった。
「半導体の不足といっても、車種によって納期遅延の仕方が異なる。仮に車両が完成しても、ディーラーオプションのカーナビやETCユニットが遅れて、登録できないこともある。お客様が急いでいる時は、ディーラーオプションを付けずに納車することもあるが、これは稀なケースで一般的には納期が遅れる」。
しかもフィットは、2021年6月3日に、特別仕様車の追加と一部改良を行った。主な改良点は、通信機能を使ったコネクテッドサービスの進化、車内Wi-Fiの設定、外装色の追加などだが、改良を行えば受注が短期間でも中断する。
販売店に現在の納期を尋ねると「6月中旬に契約されたお客様の場合、納車は9月下旬から10月上旬になる。それでも今の納期は不透明で、さらに伸びる可能性もある。この状態は、今後1年程度は続くと考えられる」とのことだ
フィットの通常の納期は、短ければ在庫車がなくても1ヵ月、長くても2ヵ月だから、3ヵ月以上の今は長期化している。
ちなみに現行フィットの販売推移を見ると、発売直後の2020年3月には、1万5000台近くを登録してヤリスや当時好調だったライズを上まわった。
それが9月以降は、販売ランキング順位が下降を開始して、11月にはシエンタなどにも抜かれた。販売不振の原因は、半導体の不足だけではない。
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