■オランダとは打って変わってモンツァでは劣勢になった
超高速のモンツァでは全セッションとスプリント予選で、レッドブルホンダはことごとくメルセデスにコンマ4秒近い遅れをとった。トップスピードがラップタイムを決めるパワーサーキットのモンツァでだ。しかし、これをもってホンダPUは、パフォーマンスでメルセデスに遅れをとっていると思うのは早計だ。
メルセデスW12は昨年のW11を踏襲していることは規則的に当然だが、昨年までのメルセデスPUのパワーアドバンテージは希薄になり、現在ではホンダPUに並ばれている。では、なぜホンダRB16Bは、スピードでW12の後塵を拝しているのだろうか。それはPUの問題ではなく、マシンの素性の問題と言って良いだろう。
W12は今まで通りフロアからのエアロ効率、つまりグランドエフェクトを正当に重視したエアロコンセプトを持ち、これまでは車高変化とロール変化を最小限に抑え、常に安定した理論上のグランドエフェクトによる大きなダウンフォースを得ることを最重要タスクと考え、サーキットセッティングでのエアロバランスの変化を前後の、特にリアウィングで補って調整を行ってきた。もちろんリアウィングは大きくなりその分ドラッグも大きかった。
しかし今シーズンはレッドブルホンダのパフォーマンスの著しい向上で、ウィングエアロでのドラッグを許容するのが難しくなってきて、トップスピードの確保にはリアウィングを中心に全域でのドラッグの削減が行われてきた。これによりトップスピードは伸び、高速でのアドバンテージは保たれ、モンツァのようなサーキットでその威力を発揮したのだ。
ただ、これには弱点もある。ドラッグを減らすことでトップスピードは伸びたが、ダウンフォースは必要最小限で走らねばならない。こうなるとクリーンエアでのタイムアタックでは問題はないのだが、前後に走行車が密集したダーティーエアでのダウンフォース変化は実に神経質になってくる。オーバードライビングはダウンフォースの限界を超えやすくなり、タイヤへの負担も大きく、常にクリーンエアでの走行が望まれるのだ。
では、もう一方のレッドブルホンダについて考察してみよう。RB16Bは、今シーズンのホンダ新型PUにより昨年よりも大きなパワーを手に入れた。RB16Bの設計思想は、フロアの大きな「レーキ角」を使ったエアロ制御にある。端的に表現すれば、ダウンフォースは必要に応じて効率良く得ようというものだ。この思想はこれまで非力なPUで戦い続けてきた歴史が産み出した知恵と言える。しかし今シーズン、ホンダから与えられたPUはこれまでになく戦闘力が高く、メルセデスと遜色ないところへとやってきた。
■メルセデスとレッドブルTOP2のキャラクターの違い
したがって昨年まで神経質に性能を研ぎ澄ましてきたマシンに比べて、トップスピードや予選での戦い方よりもそれぞれのサーキット特性に合わせたレース仕様の安定した走行性能を確立したのだ。つまりこれまでピーキーだったダウンフォースを、新しいホンダパワーのゆとりを持つことで、RB16Bではバランスの良いダウンフォースを確実に得る方向へと向けている。
しっかりとしたダウンフォースでタイヤマネージメントを確実に行い、レース戦略の選択肢を増やす。そのためにはトップスピードの落ち込みも厭わない。効率的なダウンフォースでタイヤを痛めず、さらにコーナリングスピードも上がればレースには効果的だ。
実際ダウンフォースがグランプリサーキット最小設定のモンツァでも、確実なダウンフォースにより、高速コーナーや低速シケイン等でのしっかりとした減速や、素早いトラクションの確保を可能にしている。レースは長丁場、トップスピードでは劣ってもコーナーリングで取り返し、タイヤマネージメントで勝負する。
高速で先行し逃げ切るスタイルと、前半でのタイヤセーブと後半の追い上げ。メルセデスとレッドブルというトップ2チームのキャラクターの違いが、実に戦闘的なレースを展開し続けてくれるわけだ。
TETSU ENTERPRISE CO, LTD.
TETSUO TSUGAWA
【画像ギャラリー】レッドブルとメルセデスのチャンピオン争いを写真で振り返る!
津川哲夫
1949年生まれ、東京都出身。1976年に日本初開催となった富士スピードウェイでのF1を観戦。そして、F1メカニックを志し、単身渡英。
1978年にはサーティスのメカニックとなり、以後数々のチームを渡り歩いた。ベネトン在籍時代の1990年をもってF1メカニックを引退。日本人F1メカニックのパイオニアとして道を切り開いた。
F1メカニック引退後は、F1ジャーナリストに転身。各種メディアを通じてF1の魅力を発信している。ブログ「哲じいの車輪くらぶ」、 YouTubeチャンネル「津川哲夫のF1グランプリボーイズ」などがある。
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