■立木に衝突! 交換用エンジンがある町まで片道10時間!
ただ、今回「最大の試練」はラリー前だった。木曜日に現地で行なったテスト中にコースアウト。「朝イチにコースアウト、立木に正面衝突してしまいました。ARCのコントロールタイヤのグリップを掴めなかったのが原因でした(大竹選手)」。
ただ、不幸中の幸いは衝突した時に立木が折れたため、車体側のダメージが最小限だった事だ。ちなみに昨年のWRCジャパンで勝田貴元選手のクラッシュ時に「木に当たった事で崖から落ちずにコースに留まれた」と語っていたが、今回も木が助けてくれたのである。
「もし折れていなかったら、車体はクワガタのようなり再起不能だった(大竹選手)」、「車両を確認すると、この時はラジエターが逝ったくらいに見え、簡単に直ると思っていた(竹藪選手)」と。
その後、マシンは引き上げられサービスパークに戻る。メカニックが損傷具合の確認をすると、エンジンブロックが割れていたのだ。日本であれば交換するエンジンは簡単に手配できるが、ここはオーストラリアである。日本から持ってきた予備パーツは必要最小限で当然エンジンは無い……。
TGRAはすぐに交換用のエンジンを探すも見つからず、チームメンバーは「これはダメかも⁉」と思っていた所、ニール・ベイツ氏が独自のネットワークでシドニー近郊にエンジンがある事を確認、それを使わせてもらう事に。ただ、サービスパークのあるセールからシドニーまで片道約10時間だが、NBMのメンバーは即座に引き取りに向かった。
その間に豊岡監督と3名のメカニックに加えてNBMのメカニックでエンジンを取り外し損傷箇所の修復が進められた。更にチームは車検を修復完了後に行なうように交渉、オーガナイザーも「問題ない」と即決。この辺りの柔軟性な対応にも感謝である。
■日豪のメカニックが渾身の復旧作業
金曜日の朝7時にエンジンが到着、すぐに交換作業が始まる。パーツも機材も最小限の中でのTGR-WRJとNBMの連携による修復作業は、まさに「言葉」ではなく「モノ」を通じての会話で作業が進められた。その作業を見ていると、まるでこれまでも一緒に作業していたかのような一体感で、まさにワンチーム。誰もが「セレモニアルスタートに間に合わせる!!」と言う想いだった。
そしてセレモニアルスタート前のラリーショーが行なわれる16時、GRヤリスは指定の駐車場所にいた……間に合ったのである。ボンネットは黒→白に交換されているが、ほぼ元の状態に修復されていた。
「ナオ(大竹選手)から『セレモニアルスタートには間に合わない』と言われていたので、『歩いてスタートかな……』と思っていましたが、まさか復活できるとは。このチームの底力を見ました(竹藪)」
「日本とオーストラリアのメカニックにめちゃくちゃ頑張ってもらい。完璧に直していただいたので、感謝しかありません。黒の車体と白のボンネットで、現地のファンからは『パンダ』と言う愛称を付けてもらいました。目標はとにかく走り切る事で、マシンをしっかり持って帰って次(=ラリー北海道)に繋げられるようにしたいと思います(大竹)」
豊岡監督はホッとした表情で、「思いもよらぬアクシデントでしたが、結果としてNBMのメカニックと深いコミュニケーションを取れたことが、我々にとって本当に大きな学びになりました。彼らは時間内に作業を終わられるために『何をすればいいのか』がとにかく的確で、作業に向けた準備や素早い判断など無駄なことが一切ありません。自分たちがいかに固定観念に囚われているとも感じました」と語ってくれた。
マシンの修復は他チームのメンバーも気になっていたようで、「直って良かったね」、「君の所のメカニックは凄いな!!」と言う声も。ちなみにARCのエントリーの多くはスバルWRX(何とGC8も現役)や三菱ランサーエボリューションだが、「これだけリペアビリティが高いのならば、GRヤリスもいいな」と言った問い合わせも何件か来たそうだ。
コメント
コメントの使い方ドライバー育成が目的ではなくチーム全体が第一とは言いつつ、フィジカルトレーニングや食生活、動体視力を落とさない方法などまで個別に対応してると聞きました。育成ドライバーにとって最高と言える環境。
こういったやり方が今はSNS等で共有化され、他環境でも負けていられない!と変革に繋がり、若手ラリースト全体の底上げにつながっていくと思います。