偏摩耗を抑えタイヤを長持ちさせる「ローテーション」は、特に装着本数の多い大型車では一般的な作業です。タイヤの減り方の「クセ」を理解すると、ローテーションのコツと必要性もわかります。商用車専門のプロタイヤマン・ハマダユキオさんが解説します。
文・写真/ハマダユキオ
タイヤのすり減り方はさまざま
車両の同じ位置に同じタイヤを装着したままだと、タイヤは偏ったすり減り方をして行きます。そこでタイヤのローテーションを行ないます。タイヤ業界で言う「ローテーション」は同じ車両でタイヤの装着位置を変えることを意味し、タイヤを長持ちさせるために必要な作業です。
乗用車であろうがトラックであろうが、車両に装着してるタイヤの全てが「均等に」「同時に」「キレイに」減って行く事はありえません。この事に例外は無いんですね。
さらに、タイヤ減り方の「クセ」も様々です。
例えばタイヤのサイズ、パターン特性、イレギュラーなタイヤ交換(パンク等によるもの)、車両の架装(ボディ)の特性、積荷、走行ルート等々がタイヤの減り方に影響します。
また、通常のタイヤ交換でも全輪交換だったり一部のみの最小限の交換だったり、新品タイヤではなく「外し保管」のタイヤを使用した場合等でも変わってきます。特に多軸車、装着本数の多い車両ほど、タイヤの減り方・クセは複雑になって行きます。
なので、一概に「何km走ったらローテーションしましょう!」とは言い難いんですね。
そこで重要になるのが、偏ったすり減り方=「偏摩耗」が起きる原因とメカニズムを知ることです。偏摩耗は車両の足回りに不具合がある場合も起きますが、ここでは車両自体に不具合は無いものとして話を進めましょう。
フロントとリアのローテーション
フロント軸の摩耗は一般的にタイヤの接地面、トレッドの外側が減っていきます。
これはフロント軸の場合、ハンドルを切って車両の向きを変える必要があるため。ハンドルを切ったとき、フロントのタイヤは単純に向きだけが変わるワケでは無いのです。
トラックの足回りは比較的シンプルな構造で、パワーステアリングもあるんですが、ドライバーのイメージ通りのスムーズな操舵を実現するためフロントタイヤにはいくつかの角度が付けられています。
ハンドルを回してタイヤに舵角を与え、ドライバーの狙った場所にクルマを進め、直進時にはハンドルは中立に戻り、安定して直進する。クルマによって多少の違いはあるものの、ほぼ無意識でこういう操作を行えるからこそ安全にクルマは進めるのです。
これを実現する為にフロントステアリング軸には僅かな角度がつけられています。その証(というかツケ?)がフロントタイヤの偏摩耗、「片減り」なのです。だからこそ片減りは避けられず、タイヤを長持ちさせるためにはローテーション作業が必要になります。
フロント軸の様々な角度を専門的に説明するとたぶん拒否反応が出てしまうので、簡単に言うと……、人間の足で言うなら「O脚気味で少し内股」というイメージです。勿論全ての車両が同じではなく一般的に多い設定ですね。
その結果、フロントタイヤはトレッドの両方の端がすり減り、トレッドの内側より外側のほうが強く減る傾向になるんです。
反対にトラックのリアは乗り心地より堅牢さが必要となるためシンプルな構造で、簡単に言えば車軸は一本の棒なんですね。タイヤの角度が変わる事も無く、設定もほぼ真っ直ぐです。リアの減り方傾向としては、タイヤのカドよりも真ん中付近が先に減って行きます。
なので、カドが減るフロントタイヤと、カドが残るリアタイヤの位置を交換することでタイヤの負担が均一になり、その分長持ちするワケです。