世界王者・原田哲也が「ちょっとスゴいね」と唸った! ホンダCBR1000RR-R SPはスーパースポーツモデルの良心だ

世界王者・原田哲也が「ちょっとスゴいね」と唸った! ホンダCBR1000RR-R SPはスーパースポーツモデルの良心だ

 エンジンパワーを絞り出す一方で、フレームからサスペンションまですべてのパフォーマンスを高め、電子制御で塗り固めた最新スーパースポーツモデル。圧巻の高性能を備えつつも誰にでも扱いやすいという、相反する要素が同居している。

 猛獣がかわいい着ぐるみをかぶり、澄まし顔をしているようなものだ。だが、このカテゴリーにホンダが投入したCBR1000RR-R SPは、ひと味違う。

 袖ヶ浦フォレストレースウェイでRR-Rを試乗した元世界グランプリチャンピオンの原田哲也さんは、スムーズを極めたライディングでこの猛獣を乗りこなしながらも「これはちょっとスゴいね!」と率直に語った。

 荒くれじゃない。でも決して従順とは言いがたい。スーパースポーツモデルでさえ優等生を生み出してきたホンダだが、「レースで勝つってのはこういうことだろ!」と着ぐるみをかなぐり捨て、キバを剥き出しにしたのだ。スーパースポーツのスーパーたるゆえんが、RR-Rでは実に分かりやすく表現されている。

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文/高橋剛、写真/高橋剛


電子制御がすべてを救う…わけじゃない

 200psオーバーのスーパースポーツモデルが目の前にあるとして、「よっしゃ、乗ってやろう!」と思えるだろうか? いくら「スーパー」なバイクだからと言って、タイヤが4つになるわけじゃない。

 あくまでもふたつのタイヤで、200ps……!? もはや絵空事というか、あまりに遠い世界の出来事のように感じるのがフツーだ。770psのランボルギーニ・アヴェンタドールSVJが置いてあっても、「へー」「ほー」と眺めこそすれ、「乗ってみます?」と言われたら「あ、いや結構です……」と逃げるしかないのと同じだ。

 ところが、最新スーパースポーツモデルは「いっちょ乗ってみっか」と気軽にまたがれてしまう。筆者は200ps級スーパースポーツモデルにひととおり試乗しているが、どれも本当に拍子抜けするほど難なく乗れてしまう。サーキットで走ってみても、怖い思いをしたことがない(さほどペースを上げられていないから、とも言える)。

 あ、いや、1度だけありました。タイヤテストのためにツーリング向けタイヤを履き、コーナーの立ち上がりで無防備にアクセルを開けた時、思ったよりもグリップせずにグオッとケツが出てビビッた。でも、電子制御はそのミスを見逃さなかった。メーターでチカチカッとトラクションコントロールシステム作動ランプが点滅し、何事もなく走り続けられ、素知らぬ顔でピットに戻ることができたのだ。

試乗したのはホンダ・CBR1000RR-RファイアーブレードSP。最高出力は218psで並列4気筒モデルではクラストップのパワーを誇る
試乗したのはホンダ・CBR1000RR-RファイアーブレードSP。最高出力は218psで並列4気筒モデルではクラストップのパワーを誇る

 最新スーパースポーツモデルは電子制御のカタマリだ。最高出力こそ200ps超と凄まじいが、何から何まで制御されているから幅広いスキルのライダーを受け入れる懐の深さがある。

 ボタンをポチッと押して設定を変えれば馬力もスロットルレスポンスも抑えられるし、シャシーはガッシリしていてサスペンションはしなやか、しかもタイヤはハイグリップとくれば、そりゃ乗ってみたくもなる。レースレベルで攻め立てるのでなければ、「従順」という言葉さえ使いたくなるほどだ。

 事実、最近のサーキット走行会では、ビギナーと言っても差し支えない女性ライダーたちが嬉々としてスーパースポーツモデルを走らせている姿をよく見かける。

 ただし、搭載しているのはかなりのハイパワーエンジンだ。瞬く間にハンパないスピードが出る。1速で200km/hなんて珍しくもない。そして、最終的にそのスピードの責任を負うのは乗り手自身だ。

 以前、あるスーパースポーツモデルの試乗会で、ブレーキングミスしてコースアウトするライダーを目撃したことがある。筆者の目の前で、まっすぐコースアウトしていくライダーに、こちらの肝っタマも縮み上がった。幸いグラベルに直立して止まったため事なきを得たが、わずかなミスがとんでもない事態を招く可能性を実感させてくれた。

 ちなみに前を走っていた彼は筆者と同程度のペース──つまり、さほど飛ばしたつもりはなかったのだが、気付かぬうちにスピード自体はかなり出ていたのである。

 ABSも進化しており、今やコーナリング中も不安なく強いブレーキングが可能になっている。だが、何らかの理由でパニックに陥ったライダーまではサポートしてくれない。

 ブレーキレバーへの入力があれば、車体姿勢に応じて最適な反応をしてくれるが、体が硬直してブレーキレバーを握ることすらできなければ、そのままランオフエリア直行である。電子制御盛は決してすべてを助けてくれるわけではなく、いつでも転べる乗り物だということを改めて見せつけられた。

原田哲也の脳みそを置き去りにする加速力

 優しくなったようで、スーパースポーツモデルってやっぱりそうおいそれと扱えるものじゃないのでは……? 改めてそう思わせてくれるのが、ホンダCBR1000RR-R SPである。試乗した原田哲也さんの一言目が「こりゃあ、ちょっとスゴいね!」だったのだから。もっとも、余裕たっぷりの笑顔を浮かべてはいたが。

 1993年世界グランプリ250ccクラスチャンピオンの原田哲也さんは、現役生活最後の年となった2002年を2ストモンスターマシン・ホンダNSR500で戦った猛者である。もちろん、RR-Rに乗っても、私たち一般ライダーに比べてはるかに大きくアクセルを開けることができる。

 そうしてポテンシャルを垣間見たからこそ、「スゴい」と言っているのだ。そして私たちも、原田さん同様に大きくアクセルを開ける権利を与えられている。もしくは、つい開けてしまう可能性がある。原田さんほどの人が言う「スゴい」は、決して他人事じゃない。

CBR1000RR-Rに試乗する原田哲也さん
CBR1000RR-Rに試乗する原田哲也さん

 「RR-Rのエンジン特性はかなりアグレッシブ。加速力もすごくて、僕でも脳みそが置いていかれそうになりますよ」と原田さんは笑う。「僕としては、もう少し穏やかなキャラクターの方が扱いやすくていいかな、と思います。そう感じたのは、ギア比がコースに合っていなかったからかもしれない」

 試乗した袖ヶ浦フォレストレースウェイは、全長約2.4kmのコンパクトな低中速コースだ。最大直線長も400mしかない。一方でRR-Rは、量産二輪車レースの世界最高峰・スーパーバイク世界選手権(SBK)で勝つことを目標としている。

 ホンダが威信を懸けて18年ぶりのワークス参戦するにあたって造り上げた鳴り物入りのマシンだ。SBKが行われる各サーキットは全長おおよそ4、5kmはあり、5速、6速でガンガンアクセルを開けて行く高速コーナーもザラ。そこで勝とうとするなら、かなりの高速寄りのセッティングになっていてもおかしくない。

 「高速サーキットに照準を合わせているから、ギア比がロング気味なんですよ。今のままなら、鈴鹿サーキットやツインリンクを走った方が楽しめるんじゃないかな。袖ヶ浦だとほとんど1速で回るコーナーばかりですが、回転数がかなり落ちてしまってなかなかツイてこない。

 そしてパワーが出てきたと思うと猛烈に加速する。なかなか手強い印象です。袖ヶ浦に合わせるなら、ギア比をもう少しショートにして、2速を多用するようにセッティングしたいですね。そうすればもっと滑らかに走れると思います」

ブレーキを取るか、コーナリングを取るか

 ホンダは2007年以降、SBKのタイトルから見離されている。特に近年はカワサキZX-10RR+ジョナサン・レイに6連覇を許すなど、やられっぱなしだ。だが、歴代のCBR1000RRはあまりそのことを気にしていなかった。

 「公道での楽しさを追求(してるからいいもん)」「扱いやすさを重視(してるから勝敗なんかどっちでも)」「ライダーフレンドリー(で誰にでも愛された方がいいし)」といった調子で、ツワモノ揃いのスーパースポーツカテゴリーの中では孤独で優しい優等生を決め込んでいた風がある。

 だがホンダは元来、負けず嫌いの権化だ。いよいよ勝ちに本気になって登場させたのが、今回のRR-Rである。Rが1個増えただけあって、エンジンはもちろん、車体もガチのレース仕様となっている。

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