菅首相が今年1月に2035年までにすべての新車販売を電動車に切り替え、純ガソリン車、純ディーゼル車の新車販売を禁止する方針を明らかにした。
また東京都の小池知事はそれに先駆け2030年までに都内での純ガソリン車、純ディーゼル車の新車販売を禁止すると発表した。
その次のステップとして日本でも都市部での乗入れ規制が始まるのではないかと危惧されている。ちなみに粒子状物質排出基準に満たないディーゼル車は、すでに東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、三重県、大阪府、兵庫県などでは走行規制(乗り入れ規制)が行われている。
一方、脱炭素化の流れが加速し、環境・渋滞対策が進む海外では排出量の多いクルマの都市中心部への乗入れ規制が始まっている。
そこで海外主要都市ではどのような規制があって、日本にも都市中心部への乗り入れ規制が導入されるとどうなるか? 経営アナリストの柳澤隆志氏が解説する。
文/柳澤隆志
写真/Adobe Stock、トビラ写真(AdobeStock Hieronymus Ukkel)
著者・柳澤隆志 PROFILE:外資系証券会社に25年勤務、米系証券会社東京オフィスにて史上最年少で最上級の職位であるマネージングディレクターに昇格し市場・投資銀行業務に精通、現在経営アナリストとして独立。
車遍歴としては社会人2年目で初代Z3、2000年に993C4Sを購入し21年間乗った後、フェラーリ458イタリアの新車同様の出物に入れ替えを決意、現在納車を待つ。セカンドカーとしてアルファ147、ジャガーX350 XJ-8を経て現在メルセデス・ベンツW212型E350ステーションワゴンも保有する大のクルマ好き。
【画像ギャラリー】ロンドンの乗り入れ規制標識と東京都が発表したゼロエミッション東京戦略2020 Upgrade and Report
■世界で最も厳しい乗入れ規制が導入されたロンドンはどうなっているのか?
2019年4月にロンドン市内中心部に世界で最も厳しい乗入れ規制である「超低排出ゾーン」(Ultra Low Emission Zone、”ULEZ”)が導入された。このゾーンに規制対象の乗用車・オートバイで乗り入れると12.5ポンド(約1900円)、大型トラックやバスで100ポンド(約1万5000円)が徴収される。
規制の対象となっているのはざっくりいうと2005年以前登録のガソリン車、2015年9月以前登録のディーゼル車。正確にはガソリン車でユーロ4基準、ディーゼル車・大型車でユーロ6基準に対応していない車両となる。
ただし同基準を満たす対応措置が取られたクルマ、車歴40年以上のクラシックカー、ULEZ内住民や障がい者用のクルマ、タクシーなどは対象外。
この規制はクリスマスを除く364日24時間実施されている。ULEZのなかを一瞬通り過ぎただけでも規制対象車ならチャージされるし、23時59分にULEZに入って0時1分に出ても2日分チャージされる。なかなか厳しい。
ULEZは市内中心部の渋滞を防止するための混雑税(一日当たり15ポンド)が既に適用されている地域でもあるため、混雑税適用時間帯の平日7時から22時にULEZに乗用車で乗り入れると合計27.5ポンド(約4100円)を支払う必要がある。
実質的には市内中心部は古いクルマは通行禁止、ということに近い。以下の地図の赤い点線の内側、約21平方キロがULEZとなる。東京で喩えると皇居を中心にして秋葉原駅、勝どき駅、六本木ヒルズ、牛込柳町駅で囲まれるぐらいの広さ。かなり広い。
高速道路のようにゲートや料金所があるわけではなく、自動ナンバープレート認識システムを用いてロンドン交通局が料金を徴収する。ドライバーは事前にAutoPay(自動支払い)を登録しておくか、乗り入れてから24時間以内にオンラインで支払わなければならない。
その期限を過ぎると乗用車で160ポンド(約2万4000円)、トラックで1000ポンド(約15万円)の罰金が課せられる(14日以内に払えば半額)。しびれる額だ。
ULEZ導入の目的は欧州で最悪と言われているロンドン市内の大気汚染・渋滞を軽減し、市中心部の排出ガスを20%削減すること。
2019年4月の規制導入前の2月と導入後の7月を比較すると非適合車のULEZへの乗り入れが一日当たり約3万9000台、63%減少し、域内の超低排出車の割合が85%増加した。
その結果、コロナの影響を除いたベースで2017年と2020年を比較するとロンドン中心部のNO2の量は平均44%減、基準値超えのNO2値が計測された時間は2016年の4000時間超から2020年には100時間ほどと劇的に減少した。
つまりULEZ規制は大気汚染対策として非常にうまく機能したということが言えるだろう。
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