基本構成は同じでありながら車名、外観の一部が異なり、さらに別の販売店で販売されているのが、兄弟車または、姉妹車と呼ばれるクルマだ。しかし、今や現存する兄弟車はごくわずかとなっている。しかし、兄弟車が切磋琢磨することで売り上げを伸ばしていた時代もあったのだ。
文/藤原鉄二、写真/トヨタ、日産、FavCars.com
【画像ギャラリー】歴史に残る名兄弟車たちの歩みをたどる(33枚)画像ギャラリー兄弟車は販売チャンネルの専売車種振り分けのための存在!?
ひと昔前は兄弟車はどのメーカーでも必ず持っていたものだが、近年、その数は減少の一途をたどっている。トヨタ GR86とスバル BRZのように異なるメーカーで基本メカニズムを共有する、いわゆるOEM車はいくつか販売されているが、OEM車以外で明らかなる兄弟車と言えるクルマは、トヨタのアルファード/ヴェルファイア、ノア/ヴォクシー/エスクァイアくらいだ。
兄弟車は主要メカニズムはほぼ同じで、エクステリアデザインで差別化を図るというのが基本路線だ。ひとつのリソースを効率良く活用し、車種のバリエーションを増せることが兄弟車のメリット。
また、販売チャンネルへ専売車種を振り分けるための策とも言える。専売車種がなくては販売チャンネルの差別化が図れないからだ。
消費者にとって、車種選択の幅が広がるというメリットはあるが、中身はほぼ同一、見た目だけが異なるクルマに魅力を感じないられない人が多いというのもは事実だろう。
そして、ここにきて兄弟車が激減している。その理由は、販売チャンネルの整理統合が進んでいることが大きな要因と言われている。実際、2020年5月からトヨタは全車種の併売化を決定し、トヨタ系列4チャンネル(トヨタ、トヨペット、カローラ、ネッツ)の専売車種が廃止されたのだ。
こういった状況を鑑みると、兄弟車と呼ばれるクルマが消滅する日が来るのもそう遠くはないと言えるだろう。
そんな消滅の危機にある兄弟車だが、過去にはモータリゼーションを席捲したクルマも。ここからは、そんな歴史に残る名兄弟車を振り返っていこう。
トヨタ カローラレビン/トヨタ スプリンタートレノ
兄弟車を語るうえで絶対にハズせないのは、“ハチロク”ことAE86型のカローラレビン/スプリンタートレノだ。1983年の登場から40年近くが経とうとしている今でも熱狂的ファンを持つ兄弟車だ。
レビンもトレノも違いは基本的には外観のみ。レビンはグリルを持つにのに対し、トレノはグリルレスで、リトラクタブルスタイルを採用していた。この差別化も完全に販売チャンネルのためのもので、レビンはカローラ店、トレノはトヨタオート店(現ネッツ)向けに振り分けられた。
スムーズに回る新開発の1.6リッター直列4気筒DOHCの4A-GEUエンジンとコントローラブルな足回りとの組み合わせは絶妙で、発売から間もなくしてクルマ好きから大きな注目を集めた。
ちなみに、1.5リッターエンジンを搭載するグレードも設定されていたが、こちらはAE85型で、“ハチロク”とは似て非なるものだ。
ハチロクが登場した1983年、他のカローラは前輪駆動に変更になり、後輪駆動レイアウトを継承したのがレビンとトレノだけだったということもハチロクへの注目度が高まった要因のひとつと言える。当時、走り重視派のユーザーにとってFFよりもFRレイアウトというのは定番だったのだ。
1968年に登場した2ドアクーペのことを「カローラスプリンター」と呼んだが、2代目ではカローラとスプリンターがそれぞれ別々の車種として扱われた。
現行車であった時代はレビンの人気が高く、レビンは出来のいい兄の陰に隠れる弟といったイメージだった。実際、新車の販売台数はレビンの6万6000台に対してトレノは3万5000台と、レビンのほうが圧倒的に売れている。
地味だった弟が兄を凌駕する人気を得ることになったきっかけは、AE86の生産終了から約8年後に大ヒットしたコミック「頭文字D(イニシャル・ディー)」。主人公が操るクルマがトレノだったことから、弟の株は急上昇し、下剋上状態となってしまった。
AE86レビン/トレノは、数ある兄弟車のなかでも最も成功したクルマと思われがちだが、実は既出の新車販売台数を見ると決して大ヒットと言えるものではない。現役時代は、あくまでも通好み(特にレビンは)のクルマとしての位置づけだったことは若い世代には意外かもしれない。
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