新型YZF-R7はドゥカティを超えたオリジナリティを持つ
新型YZF-R7は、回転が落ちてしまってもストトトト〜と粘り強く立ち上がるエンジン特性が、従来の並列4気筒エンジンのスーパースポーツと大きく異なる。加速も一発一発の爆発が体で感じられるもので、単純にアクセルを開けるのが気持ちいい。ヤマハはもっと早くから新型R7を出していればよかったのでは? と思わされる仕上がりだ。
さらにハイレベルな話をするとLツインやCP2エンジンの不等間隔爆発はトラクション性能に優れ、スライドを抑制する効果があるという。ヤマハは、これを得るために並列4気筒で等間隔爆発のYZR-M1およびYZF-R1のエンジンを、90度V4と同じ不等間隔爆発になるように変更したくらいレースでは重要な要素になる。
もちろん、ハイレベルな走りができなくても新型R7の2気筒エンジンは高回転型の4気筒エンジンに比べフレキシブルに反応してくれるので、中級者レベルまでなら楽しめる領域が広いのだ。
加えて、新型R7の楽しさはヤマハならでは設計思想に支えられている。ヤマハはすでに独自の車体パッケージを確立しており、新型R7にはそのノウハウが存分に注ぎ込まれているのだ。それを一言で表すと、コンパクトシャーシ+不等間隔爆発エンジンとなる。
YZR-M1、YZF-R1の歴史はこれを徹底的に追求してきたもので、MotoGPを始めとするレースでの活躍がその効果を実証している。もはやTRX850の頃のようにドゥカティを模倣しなくても、新型R7はヤマハならではのコア技術だけで充分に成り立つものなのだ。
差がつくのはハンドリングのヤマハが極めた車体パッケージ
バイクレースの最高峰MotoGPとスーパーバイクで日本メーカーに唯一対抗しうる海外メーカーはドゥカティしかない。それも国産車とは全く異なるアプローチで時に輝かしい成功を収めてきたことから、日本のメーカーからも一目置かれる存在となっている。
それ故、ドゥカティは徹底的に研究され、ホンダはその特殊なフレーム構造を模範とした市販車を投入したこともある。それがピボットレスフレーム構造で1997年にVTR1000Fを発売した。エンジンはホンダも得意としていた90度V型2気筒でドゥカティと同じだが、フレームをアルミ製としていたことが異なる。
VTR1000Fはモリワキなどが開発して鈴鹿8耐レースなどに参戦したが、輝かしい成績は収められていない。ピボットレスフレームはエンジン全長が伸びてしまうL型エンジンのデメリットを克服するためのものであり、ある程度長さを短縮できるV型には必要がなかったとも言える。
そして、エンジン全長をコンパクトにするのであれば、並列配列でありながらV型と同じ効果を発揮するヤマハの取り組みが最適解であり、ドゥカティの進化形がヤマハのスーパースポーツと言えるだろう。
しかし、ヤマハのエンジンには振動対策が必要で、バランサーを搭載する分最高出力が不利となる。ヤマハがレースで苦戦するのは主にパワーの劣勢が原因で、振動面で有利なV型エンジンを使うホンダやドゥカティと勝負ができているのは、優れたハンドリングのおかげだ。
そんなレースの世界と一線を画す新型YZF-R7は、ラップタイムや勝敗抜きで「楽しい!」ところだけを満喫すればいい。高性能すぎないのでワインディングに、遅すぎないのでサーキット走行会にもおすすめの新しいスーパースポーツだ。
コメント
コメントの使い方